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名護市長選がひっくり返ったワケ――当初はトリプルスコアで基地反対派が優勢だった



 それから5か月あまりでもぎ取った勝利。その要因について、4日夜、稲嶺氏の敗北が決まった直後に翁長知事は、「自民、中央の組織選挙が大きな威力を発揮した。市民のフリーな判断があったかどうか」と述べて自公による組織選挙、物量作戦の前に市民が正常に判断できなかったかのように評価したが、私はそれだけではないと思う。

沖縄・名護市

沖縄・名護市

 選挙期間中、渡具知氏は辺野古移設をめぐり、「国と県の裁判の行方を見守る」との発言に止まり、移設を容認するのか、反対するのか、態度を鮮明にするのを避ける戦術をとったため、稲嶺陣営や地元紙からは「争点隠し」と盛んに批判された。だが、もともと渡具知氏は市議会で辺野古移設を容認する会派のリーダー。大半の市民は渡具知氏が移設を容認する立場であるとの認識を持っていた。

 投票日当日にNHKが実施した出口調査では、最も重視した政策は「基地問題」と回答した市民が57%に上り、地元紙『琉球新報』が実施した出口調査でも、最も重視した政策として「辺野古移設」が最多で52.4%だったという。

「オスプレイが飛び交うところで観光は成り立たない。それが争点外しで理解されず残念」

 4日夜の敗北確定後に翁長知事は記者らにそう述べたが、各社の出口調査をみると、実際はしっかり争点になっていたのである。そのうえで、渡具知氏は勝利を掴んだ。

 渡具知氏の勝利に繋がった大きな要因として考えられるのは、基地問題よりも暮らしや経済振興を優先すべきとの主張だ。現職の稲嶺氏は8年の市政の間、キャンプ・シュワブのゲート前に自らおもむき、反対運動に加わるなど辺野古移設に強く反対する姿勢を堅持したが、その一方で市民生活が疎かにされ、沖縄県内全体では好景気に沸くなかで名護市を中心とする沖縄本島北部は取り残されてしまっているというのが渡具知氏の主張だ。

 投票日前日に応援に入った小泉進次郎氏も、「名護の新しいリーダーに求められるのは、対立に終止符を打つことではないか。基地に賛成か反対かを問わず名護市民なら誰でも『暮らしを良くしたい』と考えるはずだ」と演説。「そうだ!」と応じる聴衆も多かった。名護市民は20年以上にわたって翻弄され続けてきた普天間問題にもはや倦み、疲れはてて、それよりも暮らしを良くしたいという切実な願いを持つに至ったと見るべきではないか。

 稲嶺氏もそうした声を意識してか、観光振興などを通して名護市の経済を上向きするとして、目玉政策としてパンダを市内の自然公園に誘致するとしていたが、パンダの誘致や飼育に多額の経費がかかることもあって、「パンダより前にすべきことが他にあるだろう」との批判を招くことになった。

 ともあれ、結果は渡具知氏の選対関係者も「思った以上」と驚くほどの3458票もの差がついた。稲嶺氏の敗北は、たびたび応援に入ったばかりか、選挙公約の作成にも深く関わるなど、テコ入れをしてきた翁長知事にとっては大きな痛手だ。

 翁長氏が辺野古移設に反対する理由としてしばしば口にしてきた「民意」という言葉はこれから使いにくくなる。仲井真弘多前知事による辺野古の埋め立て承認を撤回すべきだとの声は、県政与党である革新各党からも地元紙からもたびたび挙がるが、国との法廷闘争になった時に勝てる見込みが薄く、容易には踏み込めない。

 名護市長選挙に敗れ、辺野古移設を阻止する具体的な手立てもないとあっては、「翁長県政のレームダッグ化は避けられないのではないか」との声も沖縄県庁内から聞こえてくる。

 今年11月には沖縄県知事選挙がある。基地問題に翻弄されてきた沖縄政治のターニングポイントとなるのではないか。<取材・文/竹中明洋>

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沖縄を売った男

翁長氏とはまったく異なるアプローチで沖縄の基地負担軽減に取り組んだ仲井眞氏を通して、基地問題を見つめ直した一冊





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