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不都合な真実も積極的に掲載? 沖縄基地問題で論調に変化が見られる地元紙

 いったい何があったのだろうか。このところ沖縄の地元紙を読んでいて驚くことが少なくない。  米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画に断固反対の立場を取り、「あらゆる手段で移設を阻止する」とする翁長雄志知事を支持してきたはずなのに、思いもよらない論調の記事が次々と掲載されているのだ。

沖縄県名護市辺野古

 例えば、2月27日付の『琉球新報』文化面に掲載された沖縄国際大学教授の佐藤学氏寄稿の論文。2月4日に投票が行われた名護市長選挙について論じたものだが、選挙の結果について<当たり前のことだが、辺野古を止めることの優先順位が低く、国から金を引き出して、地元経済の活性化を図るという政策を高く評価した市民が多数を占めたのである>と分析した。佐藤氏自身が<当たり前のことだが>と書いているように、至極まっとうだと思われる議論なのだが、正直驚いてしまった。論文を書いた佐藤氏は、沖縄の地元紙では常連の識者で、辺野古移設計画に反対してきた研究者。その佐藤氏がこんな分析をするとは。  さらに、当選した渡具知武豊氏が選挙期間中に辺野古移設の是非を問われて、辺野古での岩礁破砕許可をめぐって県と国が裁判で争っていることなどから容認とは打ち出さなかったことを、地元紙はこぞって「争点隠しだ」と批判したが、これについても佐藤氏は、<争点隠し、争点ぼかしであると批判しても、日本政府が大々的に支援をしている以上、名護市民が辺野古を争点と見なかった訳が無い>と、しっかり争点になっていたとする。

渡具知武豊氏

 つまり、名護市長選では辺野古移設が争点となった上で市民は辺野古移設阻止よりも国からの予算による経済の活性化を選んだ、というわけだ。  もっとも、佐藤氏の主旨は、名護市長選をはじめとする県内の首長選挙で基地反対の革新側候補の敗北が続いていることへの強い危機感の表明にある。翁長氏が勝利した2014年の知事選について、<あの知事選の圧勝で、「イデオロギーよりもアイデンティティー」という考えを、広く県民が支持してきたと言われてきた。本当にそうだったのか>と疑問を投げかけ、むしろ、<既に構造的に衰弱しきっている「革新」だけでは票が足りないことが明瞭であり、保守の有力者であった翁長氏が候補となることで、保守層の支持も引き付けた>結果だとし、仲井眞前知事が「目に見える悪役」を演じ続けたこともあり勝利したが、いまや<「辺野古反対」の民意が広く存在しているだけでは、首長選挙は勝てない>として、その民意を投票行動に繋げる努力が必要だとする。  ところが、そこまで議論を展開しながら、続いて佐藤氏はメガトン級の「不都合な真実」を指摘する。<沖縄県民は、本来、誰も米軍基地など望まない、ということが暗黙の了解になってきたが、それも若年層ではもはや違うのではないか。若者が現代史を知らないから、米軍基地の存在を当たり前のことと考えていると、筆者も長らく指摘してきた。しかし、若者の無知による容認、という段階はもう終わったと懸念する。反対運動が地域を分断すると敵視し、積極的に米軍基地に寄り添う人々が多数を占めるようになっているのではないか。だとすると、沖縄社会の本質的転落の顕在化である>  「本質的転落」との言葉にやや引っかかりを覚えるが、沖縄の若者のあいだで基地に対する意識に重大な変化が起きているのではないか、との指摘は、基地反対を長く標榜してきた地元紙にとっても触れたくはない問題のはず。これを読んだ沖縄の記者たちに次々と感想を聞いてみたが、一様に「よく掲載したものだ」と驚く。それでもこの論文を書いた佐藤氏や掲載した『琉球新報』は、それだけ名護市長選の敗北に対する危機感が強いからなのだろうか。  なお、先に挙げた岩礁破砕許可をめぐる県と国との裁判の判決後に佐藤氏が寄稿した記事も興味深かった。この裁判は、県知事が権限を有する岩礁破砕許可を得ずに国が辺野古での工事を進めるのは違法だとして、県が工事の差し止めを求めて提訴していたものだが、3月13日に那覇地裁は県の訴えを退ける判決を出した。3月16日付『沖縄タイムス』の佐藤氏の記事では、<県は裁判のみに辺野古を止める策を収斂してしまった。知事はあらゆる手段を駆使してなどいない。今のままならば、「どうせ止められないなら、せめて引き換えに経済的利得を」という「民意」が知事選で爆発するのは明らかである>と翁長知事への不満を示した。このままでは今年の知事選で再選は覚束ないというわけだ。
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同じ3月16日付『沖縄タイムス』には…
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