更新日:2022年12月10日 19:19
ライフ

骨董品店バイト店員の告発「本物に見えるように壺に傷を付けるのが仕事でした」

いざ骨董品の買い付けへ

 傷の付け方も板についてきた松井さん。骨董品の買い付けに、店主と出かけることも多かったそうだ。 「私がよく行っていた競りは小さな一軒家の居間でやっていました。参加している店は5軒くらいですかね、なかには小指がない人もいました」  開始値は主催者であるまとめ役が決める。大体数千円という安い値段で始まり、落札値もたかが知れているそうだ。 「この競りに参加していたひとたちは、本物なんかあるわけがないという前提で入札していました。掘り出し物を見つけるというよりは、店舗間の物々交換のイメージですね。中国や中東、ヨーロッパ専門など、それぞれ店のカラーがあるんです」  買い付け会場で「これは偽物だろ!」という発言をしようものなら、むしろ素人扱いにされ、以後出入り禁止。「それを言っちゃおしまいだろう」という感じだそうだ。まあ、そんなこと言う奴は間違ってもいなかったそうだが……。
骨董品

「これはペルシャ製ですが完全に偽物です」

真贋も含めて骨董品の魅力

 こうした事情を知らなかった筆者からしてみると、松井さんのしていた行為は悪く言ってしまえば詐欺に加担していたことになる。当時はどのような思いで壺を転がしていたのだろうか。 「バイト代も良かったですし、私も若かったので何の疑問も持たずにやっていましたよ。店主も悪びれる様子がないので、こうやってやるものなんだと受け入れていました」  客のなかには、「これ本当に本物ですか?」と野暮なことを聞いてくる人もいたそうだ。だが、「本物です」とは言い切らずに、ぼやかせば嘘はついていないことになる。こういった客は初心者ということ。上級者のコレクターたちにとっては、本物か偽物かはもはやどうでもいいらしい。 「骨董品は本物ばかりではないってところも含めて面白いんですよ。偽物を作る人も、ものすごく勉強しており、技術を高めているんです。もう、それ自体が芸術だなと思います」 骨董品
骨董品

この点はある時代につくられたという証拠だが、古く見せるために偽造された可能性もある

 作られた時代が関係ないのであれば、もはやそれは骨董品ではないのでは?とも思ってしまうが、素人の筆者には分からない魅力がきっとあるのだろう。かくいう松井さんも「これも偽物です! かっこいいでしょ!」と嬉しそうにコレクションを見せてくれた。骨董品の世界はまだまだ奥が深そうだ。<取材・文・撮影/國友公司>
元週刊誌記者、現在フリーライター。日々街を徘徊しながら取材をしている。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion
1
2
3
おすすめ記事