エゴ・サーチという深い沼にハマり傷つく芸能人たち
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
さかなクンが、自分自身に対する「うるさい」「声が耳障り」「雑音」というネットの批判に対して、真摯に受け止めるとしながら「悩みすぎたら熱が出た」とFacebookに書いたのは、なんだか、しみじみしました。
自分自身の名前をネットで検索して、その評判や批判を見るのを「エゴ・サーチ」と呼ぶのは、もうみんなの常識になりました。8年前、僕は芝居のタイトルにもしました。
誰でも一度はしたことがあると思います。そこから、頻繁に繰り返すか、もうやめるかは、まずは本人の職業によるのでしょう。
簡単に言えば、人気商売というか、人の口の端に盛んに上る商売の人は、エゴ・サーチをするたびに新たな書き込みを見つけます。
で、匿名の悪意の海で傷つくのです。
僕も何十回も、いえ、百回以上間違いなく傷ついています。
見なければいいじゃないの、と言うのは簡単なんですが、仕事上、観客や読者の反応というものは気になります。もちろん自分の好きなもの、納得したものを創ってはいますが、その感覚や指向がどれだけの人と同じなのか違うのかは、エゴ・サーチしないと分からないのです。
たいてい、寝る前、ここんところ寝酒はもっぱら赤ワインなので、気持ちよく酔っぱらいながら、つい、エゴ・サーチしてしまいます。
で、そういう柔らかな心には、批判の言葉がグサグサ突き刺さるのです。これが、昼間、会社とか喫茶店で見たら、そんなにこないと思います。でも、自宅でくつろいで、お風呂に入ってふやけて、赤ワイン飲んで無防備になっている時は、魂の奥底まで突き刺さるのです。痛みに慣れるかと思ったら、これが慣れないんですね。
で、酔っぱらっているので自制がきかなくなる傾向があります。
その昔、あまりにも理不尽な批判をブログに見つけて、「鴻上です。すみませんが、誤解なさっています」と一気に書き込んだことがありました。数日して、もう一度、そのブログを見ると、「鴻上と名乗る奴がいろいろとゴチャゴチャ書いているが、あまりに誤字が多く文章が変なので、本人じゃないな」とコメントしていて腰が抜けそうになりました。酔っぱらっているので(この時は、寝酒は泡盛のお湯割でした)、文章はメタメタ、誤字脱字のオンパレードで、読み返しもしないまま、書き込んだのでそんなことになったのです。
で、反省して、長い文章を書くのはやめようと決めました。
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