更新日:2022年12月17日 22:23
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『夫のちんぽが入らない』著者こだま、匿名の罪悪感から近所の猫を肥えさせる

――学生時代の思い出や、それこそ『ちんぽ』の夫との現在の関係、はたまた入院生活など『おしまい』にはさまざまなエピソードが詰まっていて読み応えがありました。こだまさんの「無駄をそぎ落とした簡潔な文体」はもちろん、短編集ならではの読みやすさも加わり、活字が苦手な人にもオススメしたい本だと思いました。「川本」以外にも「読んでほしい」章があれば教えてください。 こだま:まず、『私の守り神』。私には持病があり、たびたび入院しているのですが、それほど悲観的にとらえていないのは病室で出会った患者さん方の影響です。病室のおばあさん達は「頑張って生きよう」って前向きな明るさではなかった。身体が不自由だけど嘆いてもしょうがないから生きてやるか、という低調なスタンスの人たち。その無理をしてない、腰を据えたようなしたたかさがとても良くて、私も真似することにしたんです。淡々と現実を受け止める。変に落ち込まない、希望だけの綺麗な言葉に踊らされない。手術をし、ようやくベッドから出て、時間をかけて自力で歩けるようになる過程で、肉体的にも精神的にも「生き直す」機会をもらえました。

いつか全部の指がバッキバキ

――免疫系の疾患で、特に関節にダメージを負うとのことですが……指、思ったほど曲がってませんね。 こだま:(いちばん曲がっている中指を見せながら)最終的には全部この指みたいにバッキバキに曲がるみたいです。バケモノみたいになるかもしれません。でもそれも面白いだろうなと思います。バッキバキの手で親戚の子供たちを追い掛け回します。 ――首の骨も“行方不明”と聞きましたが。 こだま:首の骨もおかしくなって手術したんですけど、移植した骨が消えちゃったんです。いま私ちょっと骨が足りない状態なんですよ。首が据わってないって、こういうことなんでしょうか。本当は深刻なのかもしれないですけど、担当医に「ここ、骨ないよね」ってレントゲンを指さされて笑ってしまいました。医者も笑いを噛み殺してました。全身性の病なので、次どこがおかしくなるかわからないんですけど、どうなってもウケていたい。 ――すみません、深刻なんでしょうけど笑ってしまいました。話を戻しますね。「モンシロチョウを棄てた街でも」も、こだまさんの執筆活動の原点を知ることができる、感動的な話でした。 こだま:ネット漬けの生活を卒業し、ライターとして働き始めた時期の話です。未知の仕事に就くのはとても怖かった。対人恐怖症なのに取材に出るとか、いま考えると相当無茶なことに挑戦したんです。でも、それくらい正反対の世界に身を置かないと自分を変えられないと思っていました。そのとき出会った取材先のおじいさんが「あなたの書いた記事を読みたい」と言い、わざわざ会社まで買いに来てくれたことがありました。私の人生初の購読者でした。いまでもその一言を思い出すと初心に返ることができるし、私は自分で思っているほど駄目ではないと思えるようになった。書くこと、生きることに、背中を押してもらった経験を書きました。 ――こだま文体は、文章がキレイでユーモアもある。そしてネガティブのようでいて、“後ろを向いたまま前に進んでいく”力強さがあります。その中でもいちばん特徴的なのが、書き出しの一文だと思います。「私の守り神」の「今のあなたは転んだだけで死にます」や、それこそ「川本」の「いらないものばかりが付いている身体だった」など、一気にその世界に引き込まれます。それは意図的にインパクトのある一文を持ってきているのでしょうか? こだま:読んだ方に「一行目で要約しちゃうこと多いですよね」と言われました。確かにそうです。一行目にすべてをかけたい思いが強すぎて、最初にいきなり言っちゃう癖がある。一行目を気に入ってもらえたら、勢いで全部読んでもらえるんじゃないかという期待もあるし、一行目が決まると気持ちよく書き切ることができる。ライターだった頃「リード文は命だから大切に」と編集長に何度も直されました。冒頭の数行で記事の方向性を簡潔に示し、読者の心を掴みなさいと。その言葉が強く残っているせいか、冒頭にすべてを込めたくなります。 ――ところで、こだまさんはネガティブなのに変に負けず嫌いというか、多くの読者がこだまさんを「弱い」ととらえているように感じますが、私はむしろ「強い」と思っていて。その強さは生まれ育った環境によるものが大きいと思いますが、ご自身で性格形成に大きく作用したものはなんだと思いますか? こだま:親や同級生に自分の意見を何も言えない性格でした。赤面症と軽いどもりがあり、「話す」ことのハードルがかなり高かった。言えない分、胸の中で「いつか見返してやる」という気持ちが募っていき、喋れないから日記を書こう、容姿が悪いから勉強を頑張ろうという方向に走りがちでした。苦手分野から徹底的に目を背けて、自分のできることに没頭してきました。だからダメな部分はずっとダメなままなんです。でも別方面に希望を見出せる。そうすると少しだけ自分に自信が持てて楽しい。でも喋れるようにならない。ずっとその繰り返しです。
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罪悪感から猫に寄付
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★こだま著『ここは、おしまいの地』の試し読みはこちらから!
⇒http://www.ohtabooks.com/sp/oshimai/
ここは、おしまいの地

『夫のちんぽが入らない』から1年。 “ちょっと変わった"人生のかけらを集めた自伝的エッセイがついに書籍化


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⇒http://www.fusosha.co.jp/special/kodama/
夫のちんぽが入らない

“夫のちんぽが入らない”衝撃の実話――彼女の生きてきたその道が物語になる。

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