罪悪感から猫に寄付
――確かに、こういったインタビュー時の受け答えは「上手」ではないですよね。
こだま:すみません……全然慣れなくて。
――見つかるとすごい勢いで後ろに下がる、ザリガニみたいなところありますね。
こだま:小学生のとき、人の顔を見ると逃げ出す癖があり、親に「30人と挨拶するまで帰ってくるな」と家から締め出されたんです。でも私の集落、そんなに人がいないんですよ。だから近所のニワトリやウサギに「こんにちはー」って声をかけるしかなくて。一生懸命その辺の家畜に挨拶して、ようやく家に入れてもらった覚えがあります。
――今日は逃げ出さずにインタビューに答えてくださりありがとうございます。そんな性格でありながら、こだまさんは自ら呼びかけた仲間と文学フリマ(同人誌即売会)に出て、そこからあっという間にデビュー。いま、その姿を見て、「文章を書いてみよう」だったり、「年齢であきらめることはないのかも」と勇気づけられた人も多いはずです。ただ、それは実際には“シンデレラストーリー”とは程遠く、こだまさんの「あきらめ」に近い感情がこの結果を呼び寄せたような気がしてなりません。がんばってがんばって、でももう無理だとあきらめたその先に何かがある。そんな「不幸を面白がる」のは才能なんじゃないかと。
こだま:念願だった教師の職が続かなかったのが発端だと思います。学級崩壊を起こし、精神を病んで退職しました。時を経たのでふざけまじりに書けるようになりましたが、当時はかなり深刻で、自暴自棄になっていました。だけど、思い描いた道から大きくそれたことで、「これまでの私はもう死んだんだ」と開き直れた。やりたいことは後悔なくやったほうがいいと思って文学フリマに参加し、そこから思ってもみなかった方面に進んでいます。不幸な出来事を直視できないから、せめて「いま辛くても1年後には絶対笑える出来事にしてやる」と言い聞かせて耐える。絶対に不幸なままで終わりたくないという執念みたいなものがあります。これも自分なりの「不幸の解決法」だと思っているのですが、あまり理解されないです。いいんです。
――理解されなくてもいいと思います。自分が「それでいい」と思ったことが答なんじゃないでしょうか。最後に、作家としてこれからの展望をお聞きしたいのですが……ブログを読むと「野良猫の保護団体にお金や物品を定期的に寄付する」“猫おばさん”になったと書かれていましたね。
こだま:野良猫や保健所に収容された猫を保護し、里親探しをしている団体が身近にいくつかあるんです。定期的に治療費や避妊手術代を寄付したり、ペットフードを買って送ったりしています。身内に何も言わずに執筆活動をしている罪悪感が高まると、自然と寄付の額も上がります。私の罪悪感が地域の保護猫を肥えさせるという、わけのわからない状態になっています。
――猫の餌やりでメンタルのバランスをとりながら、それでも書き続けていく、と。
こだま:はい。次は私の人生観を覆してくれた「けんちゃん」という男の子を題材にした小説を書く予定です。ブログでも同人誌でも、場所がある限り書き続けていきたい。
『ここは、おしまいの地』のカバー用に撮影したが採用されなかった“おしまいの地”の風景。写真提供/こだま
取材・文/高石智一 撮影/大橋祐希
【こだま】
主婦。2017年1月、私小説『
夫のちんぽが入らない』でデビュー。累計発行部数は13万部超の大ヒット。『ブクログ大賞2017』エッセイ・ノンフィクション部門ノミネート、『Yahoo!検索大賞2017』小説部門賞を受賞。2018年、映像作品とマンガで展開予定。現在、『Quick Japan』、『週刊SPA!』で連載中。