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不都合な真実も積極的に掲載? 沖縄基地問題で論調に変化が見られる地元紙

 同じ3月16日付『沖縄タイムス』には、辺野古移設の阻止に向けて知事与党である革新各党の手法に疑問符を投げかけた論文も掲載された。寄稿したのは、元愛媛大学教授の本田博利氏。革新各党のあいだで、辺野古移設阻止のために、県民に是非を問う住民投票を実施するための条例の制定を目指す議論が進んでいるが、本田氏は、<県民投票には公職選挙法は適用されないから、投開票の事務を両方合わせて市町村に行わせることはできない。たとえ、条例で市町村長の「協力」義務を定めても従う義務はない><県民の半数が投票に行かなかったら、投票箱は開けず、県民投票はなかったことになる。市町村長のボイコットが主因であっても、県民は辺野古新基地問題に関心がなかったことになる。これは県政に致命的であり、国は勢いづく>と指摘している。  沖縄県内に11の市があるが、このうち9市に保守系市長がいる。これらの市長の協力が得られない場合には、条例にはこれを従わせる強制力はなく、投票率が50%に満たない場合は県民投票が不成立になってしまう恐れがあるというのだ。本田氏はこの論文のなかで、県民投票の実現には課題が山積しているため、むしろ翁長知事は埋め立て承認の撤回に踏み切るべきとの議論を展開しているが、県民投票は移設阻止に向けた切り札のひとつと見られていただけに、これまた反対派にとっては手痛い事実が明らかになったことになる。

11の市がある沖縄県

 再び名護市長選をめぐる話題に戻ってしまうが、選挙後の3月5日の『沖縄タイムス』にこの選挙について触れたTBS「報道特集」キャスターの金平茂紀氏のコラムは、その上から目線ぶりが評判になった。金平氏は地元2紙と共同通信の3社合同の出口調査で、10代の9割、20代の8割が渡具知氏に投票していたということを挙げ、<10代の名護市の若者たちにとっては、基地反対運動なんかよりも「名護市にスターバックスが来る」という選択や、「ごみ分別が16種から5種に減る」方が、もっと重要だと判断したんだろうか>と、若い世代のことを非難がましく言ったかと思うと、こう突き放す。<それはそれでいいや。僕は何にも言いたくない。「国策」である辺野古新基地建設の是非を、若いというか、まだ幼い君らに背負わせている本土の人間である僕らの方に途轍もない責任があるのだから>  本土の人間の責任を言いつつも、「まだ幼い君ら」ってさすがに…。  このコラムを正面から批判したのが、3月23日付『沖縄タイムス』に寄稿された明星大学准教授の熊本博之氏の論文。金平氏の「幼い君ら」という言葉について、<未熟な名護の若者にはこの問題の重大さが理解できず、適切な判断がなされなかったのだろう、というさげすみにも似た嘲笑が透けて見える>と批判。名護市長選で両候補の陣営でそれぞれ積極的に活動した若者がいたことや、辺野古集落でのこれまでの聞き取り調査をもとにこう指摘する。 <名護の若者たちは、真剣に自分たちと地域の未来を考え、思いを1票に託し、投じた。その彼らを、自らの政治的、思想的スタンスと違うという理由で「幼い」と非難するのは暴力的だ。私は、本土の言論人が辺野古の状況や名護市、ひいては沖縄の選挙について語る際、その最初の一歩は住民が示した民意を尊重することだと考える。それを欠いた言説は空論でしかない>  沖縄の基地問題をめぐる言論空間の歪さを的確に指摘したもので、まったくの正論だと感じた。  ここで挙げた記事は、いずれも外部の識者による寄稿となっているが、掲載する、しないの判断はもちろん各紙の編集局にある。このところ地元紙を読んでいて驚くことが少なくないと書いたが、不都合な真実も積極的に掲載していこうという変化が起きているのだとすれば、大歓迎したい。<取材・文/竹中明洋>
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