小橋建太が命を賭けて闘ってきたリング。「復帰はあり得ない」――小橋建太の青春おすそわけ#26<杉浦透 vol.3>
小橋建太が不定期で開催している興行「Fortune Dream」。様々な団体から、寄りすぐりの選手たちが一堂に会し、団体の枠を超えて激闘を繰り広げる。
5回目となる今年、期待の選手が出場することになった。FREEDOMS所属、杉浦透――。デスマッチ団体・FREEDOMSにおいてストロング路線を貫き、マンモス佐々木とのタッグで、KING of FREEDOMS WORLD TAG王座を過去最多の11回防衛。しかし本人曰く、“デビュー9年目の壁”にぶち当たっている。
そんな杉浦を、小橋はメインイベンターに選んだ。そのワケとは? 小橋、杉浦、それぞれの覚悟とは?
――技については、悩みなどありますか?
杉浦:最近、トップロープから飛ぶ技を使うようになって。ムーンサルトを一回転加えるトルネード式の技なんですけど、よけられる場面が多いんです。「ここだ!」と思ってやったらよけられたりとか、膝を立てられたりとか。どの程度まで相手を追い込んでから出せばいいのか、まだ掴めていないんです。
小橋:俺もムーンサルトは、何回よけられたか分からない。それくらい、飛んだ。膝は大丈夫?
杉浦:前十字靱帯断裂と半月板断裂で2回手術しまして、合わせて2年近く休んでいます。よけられたときに膝を痛めたりして。
小橋:いいガタイをしてるんだから、もっと力技を出してもいいと思う。飛ぶのも一つなんだけど、飛ぶだけじゃなくて、打撃であったりとか、投げ技であったりとか。投げ技はないの?
杉浦:フィッシャーマンズバスターとか、その辺りですね。打撃はエルボーが中心で、たまにチョップも。ただ、チョップとなるとどうしても、打ち慣れていない部分があります。
小橋:打ち慣れていなかったら、練習するしかない。俺は固いコンクリートの壁に練習してたよ。(潮﨑)豪も試合前にやってた。
杉浦:やっぱり鍛錬が必要なんですね。
小橋:飛び技をここぞというときにワンポイント入れていくのはいいんだけど、体格的に力技を入れるのも面白いと思う。プラス、空中殺法。投げられてトップロープに飛び乗って、そのままボディアタックとか。続けてやるんじゃなくて、ポイントポイントで入れていく。いい体格をしているから、力技を使ってほしいな。
杉浦:飛び技にこだわり過ぎているのかもしれないですね。デビューしたとき、70kgくらいしかなかったので、いま98kgなんですけど、パワーにずっと自信がない中でやってきたんです。
小橋:いまも自信ない?
杉浦:所属の選手と比べるとパワーはついてきたと思うんですけど、自分よりも大きい選手を見ると、通用するのかどうか不安です。
小橋:大きい人はいるよ。俺のときも、外国人選手はみんな大きかった。140kgとか、150kgとか、200kgとかもいた。でもそれを無理やり持ち上げて、滞空時間を作って、投げ落とすっていうのが、一つの快感だった。相手がデカいから余計に。無理やり持ち上げると自分の体にも負担がかかるけども、パワーで勝負するんじゃなくて、自分のパワーを信じて持ち上げる。力があるからパワーファイターということじゃない。
――小橋さんは何度も怪我をされていますが、後悔はないですか?
小橋:もちろん。自分はやり切ったという思いはあるよ。やり切ったから、リングに復帰しようとか、まったく思わない。自分が命を賭けて闘ってきたリングがどういったものか分かっているからこそ、復帰しようかなという気持ちは湧いてこない。後悔しないように、一生懸命やってきたから。
――リングとは、どういったものでしょうか。
小橋:俺のいまの体力や体の状態で上がれるほど、リングは甘いものじゃない。俺が引退した理由は、小橋建太のプロレスができなくなったから。もしできるんだったら、辞めていないよ。引退して5年になるけど、その頃より練習もしていない体で、戻れるわけがない。自分がベストの頃に戻れるならやるけど、戻れるわけがないから。ファンのみんなを裏切ることになる。それはこれまで築いてきた信頼関係だから、ここで嘘はつきたくない。
――それでも見たいという方もいると思いますが。
小橋:そういう方は、ビデオを見てください(笑)。
――杉浦選手は、引退を考えたことはありますか?
杉浦:僕、結婚しているんですけど、まだ子どもはいないので、もし子どもができたらどうしよう、と思うときは正直ありますね。体はまだ全然動くので、体の面では考えたことはまだないんですけど。
――奥さまはFREEDOMSのリングアナウンサーですよね。
小橋:じゃあ、全部見られているわけだ。
杉浦:そうですね、基本的に、移動も一緒なので。
小橋:いいことだよ。悪いことができないから(笑)。プロレスに理解があると思うし、集中できるよね。自分を磨くという意味で、いい環境にあると思う。
杉浦:酷い試合をしてしまったときは、家に帰ってダメ出しされます。基本的に、嫁は僕の試合を褒めないです。「余計なアピールが多かった」とか、「スベってたよ」とか(笑)。
小橋:その明るさがいいよね。FD5でも、どんどんスベってほしい。スベった上に、試合で「あ~あ……」というのはやめてほしいけど(笑)。
――最後に、今後の目標を教えてください。
杉浦:FD5で期待を懸けていただいているので、試合の中で自分が一番目立って、勝利して、そこで一皮抜けて、またこの対談に戻ってきたいです。今日、小橋さんに掛けていただいた言葉がすべてだと思います。
小橋:杉浦選手は性格もいいし、素直で明るい。ホントに、一つ一つの試合で伸びていくと思う。メインまでどんどん盛り上げて、どんどんプレッシャーを与えるよ。俺が講演でよく言っているのは、「若い人たちにどんどんプレッシャーを与えてください」ということ。プレッシャーを乗り越えることで、絶対に成長するから。
――プレッシャーを与えたら、またトイレに籠もってしまうかもしれないですね。
杉浦:本番に強いタイプなので、大丈夫です。便所を乗り越えたらもう、大丈夫。
小橋:控え室なんかだれも見ていない。みんな、リングを見ているわけだから。控え室でどんなに苦しんだって、リングでどれだけいい試合ができるかどうか。それだけだからね。FD5、楽しみにしてるよ。
杉浦:「いまを必死に生きろ」というお言葉が、本当にありがたかったです。いままでどうしても、コスチュームを派手にしたらいいのかとか、髪でも染めればいいのかとか、ヘンな方向に考えちゃうところがあったんですけど。自分の信じた道を突き進んで、いまを必死に生きる。今日、小橋さんとお話しさせていただいて、心のしこりが取れました。
小橋:この対談もさ、一人の人間のためになったね。成長したら、また対談しよう。
【PROFILE】
●杉浦透(すぎうら・とおる)
プロレスリングFREEDOS所属。’90年9月30日、愛知県半田市生まれ。高校時代、バスケットに明け暮れる一方で、プロレスラーになろうと決意。3年生の冬、愛知県の団体・DEPに入門。翌9月、デビュー。’12年5月、プロレスリングFEEDOMSに移籍。マンモス佐々木とのタッグチームで、KING of FREEDOMS WORLD TAG王座を11回防衛(最多連続防衛)。178cm、98kg。Twitter:@sugiuraman_106
●小橋建太(こばし・けんた)
(株)Fortune KK代表取締役。’67年3月27日、京都府福知山市生まれ。’87年6月、全日本プロレスに入団。“プロレス四天王”と呼ばれるレスラーの一人。2000年6月、プロレスリング・ノアに移籍。’03年3月、GHCヘビー級王座獲得。13度の防衛に成功し、“絶対王者”と呼ばれる。’06年6月、腎臓がんが発覚するが、2007年12月、奇跡のプロレス復帰を果たす。’13年5月11日、引退。現在はチャリティーや講演会など、幅広い活動を続けている。Twitter:@FortuneKK0327
構成/尾崎ムギ子 撮影/橋本勝美
■小橋建太完全プロデュース興行第5弾 『FortuneDream5』
http://www.fortune-kk.com
【開催日】2018年6月11日(月)
【開場時間】17時30分
【開始時間】18時30分
【会場】東京・後楽園ホール
■高山善廣選手応援「TAKAYAMANIA」の募金は小橋建太・FortuneKKでも受け付けております。
500円から募金を受け付けております。皆様からお寄せいただいたお気持ちは小橋建太が責任を持って全額高山選手にお渡しいたします。
https://tsuku2.jp/ec/viewDetail.php?itemCd=06950341210790
尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko
■小橋建太完全プロデュース興行第5弾 『FortuneDream5』の試合結果
http://www.fortune-kk.com
■高山善廣選手応援「TAKAYAMANIA」の募金は小橋建太・FortuneKKでも受け付けております。
500円から募金を受け付けております。皆様からお寄せいただいたお気持ちは小橋建太が責任を持って全額高山選手にお渡しいたします。
https://tsuku2.jp/ec/viewDetail.php?itemCd=06950341210790
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