アイティートラストが誇る最新性の清掃マシン。日本に数台しかないという
清掃業に集まる人は「ヤバい奴ら」ばかり?
――人がいいなあ。しかし150人ものバイトを束ねる立場ともなると、ほかにも変わった人が多いのでは?
木下:社長もよく言うんですが「清掃業界に飛び込んでくるようなヤツに、ロクな人間はいないんだ」と。やっぱりいろんなところでダメだった人が最終的に流れてくるのが、清掃の世界なんですよ。
――「汚い仕事は嫌」という意味で、やはり最終的な職業なんですかね。
木下:そういう職業差別的なところはあると思いますね。で、オオツカさんっていうおじさんがいるんです、社員さんで。
――はあ。
木下:とにかく歯が全部取れかけてるような人で。差し歯なんですけど、1個取れたらそれを車のダッシュボードに並べるような人なんです。
――聞いただけで殺意が湧きますね。
木下:ある現場で一緒になったとき、差し歯が取れたらしく、それを塀の上に置いていたそうなんです。それで作業が終わり車で移動していると、突然「差し歯忘れたーー!!」って。結局戻って、みんなでオッサンの差し歯を探すという。
――地獄ですね。
木下:地獄でした。でもオオツカさんも昔は偉かったんですよ。もともとはウチに清掃を依頼する側の人だったんです。
――クライアントさんだったんですか?
木下:そうです。しかもその会社の社長の娘さんと結婚してた「次期社長」だったんです。
――差し歯並べジジイも、もともとは。
木下:でも社長の娘さんと結婚したのに、●●で●●しちゃったり、会社のお金を●●するわで追われる身になっちゃって。(●は編集部による自主規制)
――さっき言った「ダメになったヤツが最終的に清掃業界に流れ着く」典型じゃないっすか。
木下:それをウチの社長が拾ってあげたんですよ。
――社長さん、人情家ですね。
木下:そのオオツカさん、以前、会社のハイエースを盗まれたことがあって。ハイエースには会社の財産ともいえる機材が入ってて、それごと盗まれちゃったんです。
――うわぁ~。
木下:夜中、会社近くのコンビニにいったら、店の前でオオツカさんが放心状態になってて。「どうしたんですか?」って聞いたら、「ハイエース盗まれました」と。それで警察に来てもらって、駐車場の防犯カメラを僕も一緒に見せてもらったんです。
――そこには一部始終が?
木下:音声はありませんが、映像はバッチリで。オオツカさんがハイエース停めてコンビニに入った1分後くらいに、どこからともなく若者が現れて。それで車をガチャガチャッといじったと思ったらドアが開いて、瞬く間に去っていったんです。うわ、衝撃映像みたい! と思ってたら店内からオオツカさんが出てきて。目の前には空の駐車場、アタフタしてるオオツカさんが映ってました。
――そりゃ、そうなりますよね。
木下:それであまりにテンパったんでしょうね。草むらみたいなところをかき分けてハイエースを探してました。
――なんで小っちゃくなったと思ったんだろ。ケータイ探してるんじゃないんだから(笑)。
木下:そうしたらオオツカさん、手に持ってた肉まんをパクリとひと口食べ、そのあとにヒザから崩れ落ちていたんです(笑)。
――いい話じゃないですか(笑)。オオツカさんもかわいいとこあるし。
木下:いや、クズですよ(笑)。めちゃくちゃウソつくし。以前、お客様に対して不始末を起こしたことがあったんです。でもそれを社長にバレたくはない。でも始末書は書かなくちゃいけない。だからってオオツカさん、社長の印鑑をくすねて来て勝手に押して、社長の名前も勝手に書いて。それを社長に見せずして、始末書を先方に提出したんです。
――完全犯罪を目論んだんですね。
木下:でもあっさりとバレたんですよ。なぜかといったら、僕もその始末書を見たのですが1行しか書いてないんですよ。「○○してすいませんでした」って、そんな始末書あります? 小学生じゃないんですから。
――例えば「吸殻をポイ捨てしてごめんなさい」という文言に、社長の印鑑が添えられていたと。先方からすれば「この会社、狂ってんのか?」ってなりますよね(笑)。
木下:それで結局、あとで社長が謝りに行って。
――その一方、木下さんはバイトながら東京営業所の所長に出世したと。
木下:いや、そんなのばっかりいるから、僕が良く見えるだけなんですよ!
――クズの中にいると、より一層輝く一番星。
木下:それで、こんなバイト生活をネタにした漫談のライブを去年、やったんですよ。90分ひとりで喋るっていう。それで舞台に出たら、客席の最前列のど真ん中にオオツカさんがいたんですよ。ネタの中にはオオツカさんの悪口がふんだんに盛り込まれていたので、あれにはビビリましたね。
――木下さんの本職のほうでも迷惑かけてくるとは(笑)。オオツカさんからすれば「同僚がお笑いライブに! 応援せねば!」という親切心で来てくれたんですかね?
木下:いや、そんないいもんじゃないです。社長が行きつけのスナックのホステスさんが何枚かチケット買ってくれたので、そのホステスたちの引率係として来たんですよ。あと、社長が「このネタ使え」と何個かネタをくれたので、それを本当に僕がライブで喋るのかのお目付け役です。
――入り組んでんなあ(笑)。
木下:で、始まってみれば、自分の悪口のオンパレードだったという。
商売道具である清掃マシン。操作方法はもちろん頭の中に叩き込まれている
――(笑)。とにかく木下さんは芸人として輝くためにも社長を狙っているんですから、頑張ってください!
木下:そうそう、先日新しい仕事の依頼が来て。こうやって取材していただいてるように、どこから話が広がったのか、先日『ルミネ・the・よしもと』から連絡があって。
――おっ! 清掃芸人として注目され、ついにオファーが来たんですか!?
木下:いや、「劇場を清掃してくれ」って、オファーが来て。
――そっちかーーーーーいっ!!
木下:いや、以前から「ルミネ・the・よしもとのカーペットは汚いから清掃させてくれ」って、ボケでずっと言ってたんです。そうしたら支配人から「本当にやってほしい」と依頼が来たんです。
――本来自分たちが上がる舞台、いくらバイトだからとはいえ清掃するだけって、さすがにツラくないですか!?
木下:そうです! だから「清掃代金はいらない。僕と中本ふたりがタダ働きで清掃する。その代わりにパタパタママ、ツーナッカンをルミネ本公演の出番に入れてほしい」と交渉したんです。
――おおっ! それで!?
木下:本公演、ゲットしました!!
――執念ですね~。いや、凄い!
木下:だって僕、8年前に東京に出てきたときは。フツーに本公演出てましたもん。それを7年間迂回して迂回して……
――お笑いナビは「ルートはありません、ルートはありません」いうから迂回して迂回して(笑)
木下:結果、またルミネの舞台にたどり着いたんですから、感慨深いですね。
――最初に「アンタ、軸足9割バイトに置いてんだろ」などと疑ってすいませんでしたぁ! 本当に煮え湯を飲み、霞を食いながらも芸人を諦めてなかったんですね。
木下:俺はっ、芸人です!!
木下さんの同僚も暮らすアパートの裏にて
<取材・文/村橋ゴロー 撮影/林紘輝(本誌)>