日本の「システムに疑問を持たせない」教育の弊害
― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
かれこれ、37年ぐらい演劇の演出家をやっていて、つまりはその期間、ずっと若い奴とつきあってきたわけです。毎年、オーディションをして、二十歳前後の俳優志望やスタッフ志望と出会い、共同作業を続けてきました。
最近、彼ら彼女らから何度も聞く言葉があります。
「そんなことしていいんですか?」です。
先日、『虚構の劇団』というおいらが若い奴らとやっている劇団の新人発表会のようなものがありました。
俳優も新人なら、スタッフも新人です。慣れないまま、音響と照明の操作をしようと、オペルーム室に入りました。
オペルーム室、通称「オペ室」はたいてい、客席の一番後ろの壁の奥にあります。小窓が空いていて、そこから舞台を見るようになっているのです。
音響と照明を担当する新人が、それぞれ並んで、オペ室に立ちました。
目の前にあるアルミサッシの小窓が閉まっていると、俳優の声がよく聞こえないので、なるべく開けようとします。
が、この小窓は引き戸なので、音響側が開けると照明側が閉まり、照明側が開けると音響側が閉まる仕組みになっています。しょうがないので、それぞれが中途半端に開けて舞台を見ようとしていました。
でも、開いているスペースが少ないので、なかなか、俳優の声が聞こえないのです。
新人を育てるためには、ぎりぎりまで試行錯誤を放っておくことが大切なのですが、ここまでかと、音響と照明の二人に「じゃまなら、窓、外せばいいじゃん」と言いました。二人は同時に、「そんなことしていいんですか!?」と叫びました。
「なんでダメなの?」と僕は返しました。
この劇場は我々が借りていて、備品を破壊したり、改装したりしない限り、自分達がベストの状態で上演できるようにすることは当り前のことなんじゃないの? だから、アルミサッシの窓をいったん外しても簡単に戻せるんだからいいんだよ。
そう説明しましたが、鳩が豆鉄砲のオートマチック連射を食らったような顔をしていました。
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