災害派遣の自衛隊員、免許があっても重機を使うのはNG!? 足かせとなる陸上自衛隊の制度
「自衛隊ができない40のこと 36」
このところの台風の動きは従来とは違い、北海道までその影響範囲となってきたようです。夏から秋にかけての台風のシーズンには、日本全土が突然の暴風雨や土砂災害に警戒しなくてはならないのです。
西日本豪雨災害の被災地の一つ、広島市と呉市を結ぶJR呉線は、土砂崩れで運行できなくなりました。東広島に住む被災者の方が「10月まではJRが復旧しないため、主人は職場近くに単身赴任する覚悟をしました」と話してくれました。JRが使えないため、通勤時間の道路は大渋滞となり、職場に遅刻することもあったようです。災害は一度起こると長く被災者の生活に影響します。家族が離れ離れに暮らす不自由さや寂しさが、災害の後片付けが終わってほっとした時に込み上げてきて涙がでるのです。
インフラの完全復旧は早ければ早い方がいいのですが、今回の災害派遣で少し気になることがありました。自衛隊は災害の初期段階の救難と後片付けの手伝いをしましたが、大きな重機があるのに使わず、スコップで手掘りという部隊もあったのです。「どうして?」と不思議でしたが理由がわかりました。
今回の災害派遣には、常勤の自衛官だけでなく、多くの予備自衛官たちも参加しました。予備自衛官は非常勤の自衛官で、普段は別の仕事をしています。年間所定日数の訓練を受けて自衛官としての能力を維持しつつ、イザと言う時には自衛隊に組み込まれ自衛官として災害対処や治安維持、防衛の任につく人達です。予備自衛官が様々な免許を持っていることがあります。自衛隊で免許や資格を取得した人もいれば、今働いている職場で取得した場合もあります。
「西日本豪雨災害の災害派遣」に応じた予備自衛官のAさんは、建築機械のユンボやブルドーザーを使える「車両系建設機械」の免許を持っていました。テレビで河川が決壊して水が流れ込んでいる様子を見ていた彼は、これは重機を使う人が必要な災害だと考え「免許を持っている俺が行かないでどうする」と決意しました。通常の仕事の方が災害派遣に出るよりずっとお金になるのだけれど、「こういう時に役に立ってこその予備自衛官だ」と、まだ派遣地も決まっていないうちに「行きます」と返事をしたそうです。
まずは道路を塞ぐ大量の土砂をどけなければ、救援車両や食料を運ぶ輸送車は被災地に行けません。もちろん、ヘリで緊急輸送はできますが、たくさんのトラック輸送で運ぶ量には程遠いわけです。断水で飲み水がない中、給水車や救援物資等が通る道を確保したりすることは重大な任務です。
そもそも、自衛隊は国防のための組織です。重機の免許を持っている常勤の隊員がいても、常に土木や建築工事で重機を使っている人のスキルにはかないません。民間の土木や建築現場の専門職として磨いた技能をフルに使って「助けにいくよ!」と手を上げてくれた彼らには心からの感謝をしたいとおもいます。
今回の西日本豪雨災害では、事前に各々の予備自衛官がどんな免許を持っているかの聞き取り調査があったようです。土砂をどける土木関係の資格、重機の免許と振動機械の資格を聞く調査があったため、その資格保持者は現地で活躍できると本気で考えていました。「よっしゃあ!やるぞ!」と仕事の休みを取り災害派遣に出向いたわけです。
ところが、現地は大混乱していました。土砂をどけるための建築機器があるにもかかわらず、自衛隊の制度の問題で、せっかくの資格をもつ予備自衛官はブルドーザーもユンボも運転することができなかったのです。
台風シーズンの豪雨災害は突然やってくる
建築機械免許を持つ予備自衛官が派遣志願
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おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
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