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災害派遣の自衛隊員、免許があっても重機を使うのはNG!? 足かせとなる陸上自衛隊の制度

陸上自衛隊での特殊資格登録がないと重機は使えない

 MOS(モス:Military Occupational Specialties):特技(自衛隊での取扱資格)と呼ばれる制度がこの壁となりました。自衛隊内の制度登録資格がないと、重機を自衛隊の隊員としては運転させられないのです。これは陸上自衛隊独自の制度のようです。  隊員でさえなければ、免許があれば運転できるのに、自衛隊員としては運転を許可できないなどという制度に開いた口がふさがりません。
陸上自衛隊

陸上自衛隊Facebookより

 制度を説明します。自衛隊のトラックを例にします。トラックを運転するには、中型免許が必要です。しかし、中型免許を取得しているだけの自衛隊員は、トラックを運転してはいけません。自衛隊の中での特技としてのMOS資格を登録してないと、いくら国家資格があろうがダメなのです。「手枷足枷」ってこれですね。自衛隊車両でよく見かける小型のトラックの運転に必要な特技が『初級装輪操縦(特技番号55373)』です。一般の普通免許以外に、自衛隊員として自衛隊内の仕事で運転するためにはそれが必要なのです。2つがそろわないとダメなのです。  特技と免許の両方をもつ自衛隊員よりも上手に建築機器を使える予備自衛官がいて、十分な重機があったにもかかわらず、彼らは運転を許されず、スコップで手掘り作業をすることになりました。  さすがにこの制度は現場で問題となりました。しかも、指揮官によって認識が異なり、作業していいかどうかの方針が二転三転する大混乱だったようです。これを教訓に自衛隊内の制度が変わってくれればと思います。そもそも自衛隊は公務員であり、災害派遣時のような急を要する場合でも制度重視です。せっかく技能と志のある隊員が現場にいたのに、がんじがらめで使えなかったことが本当に悔やまれます。

自衛隊を縛る制度と憲法改正

 外から見るとこういった制度は「枷」にしか見えません。まるで、自衛隊を自由に動けなくするためにわざわざ存在するかのように見えてしまいます。この自衛隊を縛る法律や制度は、自衛隊が合憲ではないという認識をもとにできたものだと思います。  自民党は2020年までに自衛隊を合憲とする憲法改正を目指しています。そのスケジュールで憲法改正をするためには、この臨時国会、もしくは次の年の通常国会には憲法改正の発議がなされないといけないはずです。来年度には皇位継承式典などの行事が予定されており、国民投票で使える日程は限られています。  こうした自衛隊を縛る制度や法律が、一刻を争うはずの災害派遣現場でも自衛隊の力を削いでいます。憲法改正をやり遂げ、こういった制度の矛盾を一新できる時が一日も早く来ることを祈っています。<文/小笠原理恵>
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

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