更新日:2019年01月25日 17:32
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覚せい剤“常習犯”カップルの成れの果て<薬物裁判556日傍聴記>

自分の身に降りかかった不当な家宅捜索をきっかけに、薬物裁判を傍聴し続けた男がいる。彼の名は斉藤総一さん。556日も裁判の傍聴に通い続けるようになり、それだけでなく、彼は文字通りその法廷劇のやりとり全文を書き取ってきた。そんな彼の「薬物裁判傍聴記」からは、薬物にハマり人生を転落する人々の、生々しい人間模様が浮かび上がってくる――。
斉藤総一さん

斉藤総一さん

※プライバシー保護の観点から固有名詞や住所などはすべて変更しております。

彼氏の浮気が原因で覚せい剤にハマった女性

 前回、僕の傍聴した裁判のなかから、母親が使用した注射針を中学生の長女がゴミから拾い出して学校に持っていき、教師に届けたことで発覚し逮捕に至った事件を紹介しました。今回紹介する裁判も同じく覚せい剤取締法違反の裁判ですが、発覚・逮捕までの過程はまるで違います。どちらも女性であり、救いがない印象を受けるのは共通しているとは言えますが……。  被告の名は耳塚絵里子、年齢は30代後半。「同種前科4犯を有しており、うち3犯については服役していたにもかかわらず、前刑出所後わずか1年足らずで再犯におよんでいる」(検察官・求刑)。  具体的に、どのような事件なのか。まずは検察官の起訴状朗読に耳を貸しましょう。 検察官「平成28年9月30日付け記載の公訴事実。被告人はみだりに平成28年5月10日、東京都練馬区石神井台11丁目89番地26、練馬グランドハイツ103号、当時の被告人方において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する白色結晶上粉末0.102グラムを所持したものである。罪名および罰条、覚せい剤取締法違反、同法41条の2、第一項。」  では彼女の覚せい剤所持はなぜ発覚したのか? 理由は以下の冒頭陳述で明らかになります。 検察官「(前略)平成28年5月9日、被告人の交際相手である村上正和が当時の被告人方を訪れたところ、被告人が覚せい剤を使用している様子で、使用した残りの覚せい剤の入ったパケや、血の付いたティッシュや注射器を発見し、片付けなければならないと考え、前記村上が自ら持っていた封筒に入れました。同日に姉が被告人の様子を心配して、当時の被告人宅を訪れたため、前記村上はとっさに前記封筒を隠しましたが、最終的に被告人の姉に発見されました。  犯行状況は公訴事実記載のとおりであり、平成28年5月10日、警察に被告人の姉から、被告人の部屋から封筒に入った注射器等が発見されたむねの状況提供を受けたため、被告人方に赴いたところ、被告人方から覚せい剤等が発見されました。  被告人は前記パケが当初見覚えがない封筒に入っていたため、自らの覚せい剤ではないむね述べましたが、その後、前記村上が封筒に入れたことを知り、自らの物であることを認めました。第3として、その他情状等です。以上の事実を立証するため、証拠等、関係カード記載の各証拠の取り調べを請求します。以上です」  補足すると、ここで登場する交際相手の村上も覚せい剤の常習者で、同種前科5犯を含む前科13犯というツワモノ。そもそもの2人の関係の発端まではこの裁判だけではわかりようもないですが、覚せい剤はカップルで使い始めると中毒性なのか常習性に拍車がかかる印象です。覚せい剤にはまったことのある人間がよくいう、「覚せい剤とセックスの相性」ゆえかもしれません。  以下の被告と弁護人とのやりとりを一部読むだけでも、その泥沼感が垣間見られます。 弁護人「そのあと、警察が5月10日に来て、そのあと尿検査のために病院に行きましたよね?」 被告人「あーはい」 弁護人「その時に、尿検査には応じましたか?応じなかったんですか?」 被告人「あー応じました。」 弁護人「自分から尿を出した?」 被告人「あーはい」 弁護人「その後、あなたはどこに行きましたか?」 被告人「その後は…」 弁護人「ごめんさい。えーっと、尿検査したあと、すぐに逮捕されましたか? それとも…」 被告人「逮捕されていません」 弁護人「尿検査の後どこに行きましたか?」 被告人「村上のところです」 弁護人「石神井のアパートはどうしたんですか?」 被告人「解約されました」 弁護人「そのあと村上さんのアパートに居候のようなかたちで一緒にいたんですね?」 被告人「そうですね」 弁護人「そして8月末になって逮捕されたということですか?」 被告人「あーはい」 弁護人「村上さんの家に行った頃から、村上さんと交際を始めたということですか?」 被告人「そうですね」
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「覚せい剤はどこから入手したの?」
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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