逮捕された男だけでなく婚約者まで衆目に晒される悲劇<薬物裁判556日傍聴記>
―[薬物裁判556日傍聴記]―
3年間に及ぶ薬物裁判の連載もついに最終回。最後は、これまで紹介した事件で、最も特徴のないものと言えるかもしれない。
罪状は少量の大麻所持。常習性こそ問われるものの初犯であり、覚せい剤の所持使用がない分、救いのない悲惨さはない。もちろん法を犯している以上は罪に問われるべきなのだろうが、司法もこの法廷に割く時間はないとばかりに、かつてないほど短い。
それだけに、「薬物で逮捕されることによって人は何を失うのか?」というリアルさが余計に浮き彫りになった法廷劇だ。
※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。
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まずは例によって検察による起訴状の朗読から。
検察官「公訴事実。被告人は、みだりに、平成28年9月14日、東京都世田谷区西烏山5-17-3 グラッチェ211号室、被告人方において、大麻である、乾燥植物片5.49gを所持したものである。罪名および罰条、大麻取締法違反、同法24条の2第1項。以上につき、審理をお願いいたします」
今回の裁判はいわゆる即決裁判。結論ありきの20分程度の法廷劇です。起訴状も被告人が自宅で大麻を所持していたというシンプルなもの。これまでさまざまな傍聴記を紹介してきましたが、今回の裁判が最も事件性がないものと言えるかもしれません。
とはいえ、どうして被告人は大麻を持つに至ったのでしょうか?
弁護人「それでは弁護人からお尋ねします。前を向いてしっかりとした声でお答えください」
被告人「はい」
弁護人「大麻を使用していたということなんですけども、大麻を使ってしまったきっかけについて、簡単にご説明してください」
被告人「そうですね。先ほどありましたように、軽い気持ちから誘いを受けて」
弁護人「どこで? 場所は?」
被告人「最初ですか? 渋谷のほうのヒップホップのクラブで。興味も少しあったというのもあって、本当に軽い気持ちで手を出してしまったという感じです」
弁護人「使ったときの感覚はどういう感覚だったんですか?」
被告人「なんか、高揚感があるというか、なんていうんですかね、気持ちが高ぶるというか。そんな感覚がありました」
弁護人「それで、平成21年から継続的に大麻を使用したり、買ったりしていたわけですか?」
被告人「そうですね。平成23年から平成25年ぐらいの間は、まったく使っていなかった時期もあったんですが、それ以外はだいたい継続的に使っていたという……」
弁護人「大麻を持ってちゃいけない。吸うこともいけないということは、わかっていましたか?」
被告人「はい。わかっていました」
弁護人「何回も使用したり持っていたということですけど、自分のなかでやめなくちゃいけない思いはなかったですか?」
被告人「何度もそういう思いはあったんですが、どうしても誘惑だったり、気分が高ぶるという感覚がなかなか忘れられなくてとめられない状況でした」
■裁判には同居女性まで登場し……
―[薬物裁判556日傍聴記]―
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す 斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中
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