“神試合”からあらためて感じたソフトボールの魅力
試合自体は大変な熱戦となります。
日本が2点を先制するも、レジェンド上野が逆転スリーランを浴びてアメリカがリードを奪う序盤戦。試合中盤に入ると、今度は
日本が藤田倭(倭と書いてヤマトと読む/投手もつとめる二刀流選手)が同点をホームランを放って延長戦に。そして
延長8回表には日本がスクイズ気味のエンドランで勝ち越し点をあげて、一旦は世界一に手をかけるというシーソーゲームです。
会場の盛り上がりもすさまじく、8回裏のマウンドに向かう
レジェンド上野由岐子の背中には、黄色い大声援が送られます。場内にはウェーブが走り、昼間の準決勝から連投で投げ続けている上野を励まします。しかし、ソフトボールの延長戦はタイブレーク制(※無死二塁の状況からイニングが始まる)ということもあって点が入りやすく、同点打を許してしまいました。試合はさらに延長にもつれ込んでいきます。
最終的に一日で244球を投げることになる上野には、さすがに疲れが見えています。
上野は投手に専念し、味方の攻撃の際はベンチに戻って静かにチカラを蓄える
一方アメリカはめまぐるしく投手を交替しながら戦ってきます。
ソフトボールには野球とは少し違う仕組みがあるのですが、そのひとつに「指名選手(DP)」という仕組みがあります。これは
野球の指名打者(※投手に代わって打撃のみを行なう)とは違い、どの守備者に対しても付けることができます。「指名選手が代わりに打撃を行なうことになっていた守備専門の選手」以外にもつけることができるので、選手のやりくりが非常に自由になる仕組みです。
「DPが投手の代わりに打撃を行なう(投手は投げるだけ)」という初期状態から、
「DPは投手の代わりに打撃を行なうのに加えて守備に難があるファーストに代わって守備も行なう(DPはファーストを守りつつ打つ、投手は投げるだけ、ファーストはDPに守備を任せて打つだけの選手に)」といった布陣に変更することも可能です。
そして
ソフトボールではスタメン選手は交代で退いたあとも、一度だけ試合に再エントリーすることができます。この「DP」と「再エントリー」を活用することで、
同じ投手が試合に二度出てきたり、「打撃もこなせる投手」を投手以外の起用方法で試合に残しておいてまたマウンドに上げたりといったこともできます。
たとえば
「先発投手・田中将大は投げるだけ、そのぶんの打撃はDP大谷翔平が行なう」というスタメンから、
「途中でDP大谷が田中の守備位置についてDP投手となりマウンドに上がり、田中はベンチに下がる」という状態に移行し、さらに
「田中が再エントリーしてマウンドに上がり、DP大谷は再び打撃に専念」といった継投策も可能となります。
アメリカは複数の投手が入れ替わりながら投げてくるのに対して、
日本は上野由岐子がひとりで投げ抜くという体制。そのあたりも最後の最後の勝負所に影響したかもしれません。
日本は延長10回表に藤田倭のこの日2本目となるツーランホームランで2点を勝ち越したのですが、10回裏に上野が打ち込まれて再逆転を許し、サヨナラ負けとなってしまったのですから。
延長10回表に藤田のツーランで勝ち越すものの……
上野が打ち込まれてアメリカが逆転サヨナラ世界一
試合の内容、対戦カード、世界選手権の決勝という舞台設定、なかなかこれ以上はないような神試合でした。観客の熱意も高く、おそらくほとんどの人が「?」となりながら読んでまったく理解できなかったであろう
「DP」の仕組みについても、日本の活用法はイカンとか批評を加えながら観戦するような熱心な人が多く見られました。運営面の手際もよく、売店やお楽しみイベントなども含めて、立派な興行でした。
しかし、そんな試合を僕はゆったりと足をのばして、隣にも前後にも気を遣うことなく観戦できていました。観戦位置を変えて一塁側から見たり、三塁側から見たり、好き勝手に動きながら。何なら、自分の右隣の座席に荷物を置いて、自分の左隣の座席にビールと弁当を置いて、ひとり宴会をゆったりやってもいいくらいに席は余っていたのです。
ソフトボールをお金と時間を使ってまで見ようとする人は野球場の座席数よりも少ない、そういう感触を得ました。
圧倒的にプロ野球>ソフトボールなメディア露出も追い風に
翌日のスポーツ新聞一面を見ても、ニッカンスポーツが
「甲子園初タイブレークが生んだ逆転サヨナラ満弾(高校野球の話)」、スポニチが
「100回で初!!ミラクル済美 逆転サヨナラ満弾(高校野球の話)」、スポーツ報知が
「由伸マツダで勝った(巨人の話)」、サンケイスポーツが
「的場7152勝(競馬の話)」、デイリースポーツが
「糸井と競弾 猛打ショー福留(阪神の話)」、中日スポーツが
「博志も2軍(中日の話)」と、まったくソフトボールは出てきません。
スポーツ新聞は野球は大好きなくせにソフトボールはそんなに好きではないのです。これはもしかしたら意外な穴場を見つけてしまったかもしれません。
東京五輪本番でソフトボールを行なう会場は、福島あづま球場と横浜スタジアム。両会場とも千葉マリンスタジアムと同規模の3万席のスタジアムです。もちろん
五輪ということで、世界選手権以上の客入りにはなるのでしょうが、日本の金メダルが狙える競技であること、会場の座席数が多いこと、現状の人気具合を勘案すると、バランスのいい穴場であると言っていいでしょう。
同じ会場で行なわれる野球よりも、
「五輪くらいでしかソフトボール見ないから何か五輪だなって感じがする」という特別感もあるでしょうし、何より
選手たちが五輪の金メダルこそを人生最大の目標に据えて戦うであろうことにも魅力があります。野球なんて、五輪の合間もペナントレース後半戦のことを考えながら戦う感じでしょうし。野球よりもソフトボール。むしろ
みんなが野球に注目して、ソフトボールのことを忘れてくれたら、穴場狙いとしてもありがたいところ。ぜひ野球が盛り上がってもらいたいものですね!
最後に小ネタですが、会場で販売されていた公式パンフレットにはこんな訂正シールが貼られていました。
最後に小ネタですが、会場で販売されていた公式パンフレットにはこんな訂正シールが貼られていました
現日本代表監督の宇津木麗華さんを、北京五輪当時の日本代表監督であった宇津木妙子さんとゴッチャにして、麗華さんが「監督として北京大会金メダルを獲得」と書いちゃったという間違いの訂正でした!
こういうの穴場競技っぽくて好きです!