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“パリピ感あふれる自転車競技”BMXは東京五輪の穴場か?

~今から始める2020年東京五輪“観戦穴場競技”探訪 第64回~  フモフモ編集長と申します。僕は普段、スポーツ観戦記をつづった「スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム」というブログを運営しているスポーツ好きブロガーです。2012年のロンドン五輪の際には『自由すぎるオリンピック観戦術』なる著書を刊行するなど、知っている人は知っている(※知らない人は知らない)存在です。今回は日刊SPA!にお邪魔しまして、新たなスポーツ観戦の旅に出ることにしました。  東京五輪へ向けて現地観戦ができそうな穴場競技を探している本連載ですが、穴場のなかにもイイ穴場とそれほどでもない穴場というのがあります。どうせ見るなら少しでも五輪でなじみがある競技が見たいし、「少しでもラクに観戦できるものがいい」のは自然な気持ちです。

日本にひとつだけある国際規格の屋内型木製自転車トラック、伊豆ベロドローム

五輪競技で不遇に見舞われる自転車競技

 そんななか、穴場としてはじょじょに雲行きがアヤしくなっているのが自転車競技。自転車競技は日本での注目度はさほどでもありませんので、基本的には穴場っぽい競技です。本番では「日本発祥のケイリン種目も楽しみです!」みたいなことを紹介番組で連呼するのでしょうが、競輪が好きな人は五輪期間中であろうが競輪場にいるわけで、現地観戦にも期待が持てるだろうと思ってしまうわけです。  しかし、この東京五輪に関して言うと、自転車競技は大変な不遇に見舞われています。有り体に言うと、東京五輪ではなく静岡五輪をやらされることになっているのです。招致段階では「競技会場の85%を選手村から8キロ圏内に設けたコンパクト五輪」などと標榜していたものが、それは華麗になかったことになり、どんどん東京以外へと競技会場は移されています。特に自転車競技は、大半の種目が遠く静岡県で実施されるのです。   本連載でも以前見に行った伊豆市修善寺の「伊豆ベロドローム」でトラック種目を、ベロドロームの隣にある「伊豆サイクルスポーツセンター」でマウンテンバイク種目を、そしてロードレース種目もスタート地点こそ都内ですがゴールはやはり静岡県の「富士スピードウェイ」です。「皇居を出発してロードレーサーが都内を駆け巡る」などという計画は夢と消え、東京の外れから静岡へと向かって走っていくのです。復路がない箱根駅伝みたいな感じです。

廃墟遊園地みたいな雰囲気でたたずむ伊豆サイクルスポーツセンター

 せっかくロードレースなんていうタダ観戦できそうな種目が自転車競技にはあるのに、沿道に立つだけでも23区から出ないといけませんし、勝利の瞬間を見ようと思ったら静岡まで行かなければならないだなんて。静岡まで行けば確かに穴場っぽくはなるのでしょうが、コスパはだいぶ悪い感じがします。選手たちも 「ここTOKYOじゃないな……」 「静岡出発で東京ゴールならまだ理解できるが……」 「静岡五輪の最後の陸路をチャリで行かされた気分……」 と釈然としない想いを抱えて走ることでしょう。  しかし、まだ望みはあります。  自転車競技で唯一都内に残留し、有明に新設されるコースで開催されるBMX種目があるのです。静岡まで行くのは正直面倒だけど、有明で済むなら検討してもいいかもしれない。ということで今回は、BMXレーシングの全日本選手権へと視察に向かい、イイ穴場なのかどうかを確かめてまいります。

向かったのは茨城県の国営ひたち海浜公園

会場で待ち構えていた予想外の光景

 そもそもBMXとは何かと言いますと、バイシクル・モトクロスの略で、モトクロスのような起伏のあるコースを自転車で走るスポーツのことです。ごっちゃになりがちなMTB(マウンテンバイク)は山道などのオフロードを走る種目であるのに対し、BMXはタイヤも小さ目なコンパクト車体で人工的なコースを走る種目となります。  そのBMXのなかにも2系統があり、ひとつは北京大会から採用されている「レース」種目、もうひとつは東京大会から新採用となる「パーク」種目です。レース種目では、400メートルほどの起伏のあるコースを走り、誰が一番早くゴールにたどりついたかを競います。パーク種目では、スケボーと同様にスケートパークでさまざまな曲乗りを披露し、技の見事さを競います。  今回観戦してきたのは、すでに三度の五輪実績があるレース種目のほう。東京五輪開催が決まった時点から2020年を目指していたであろう選手・観客の様子を見れば、この種目の盛り上がりは大体の察しはつくでしょう。できるだけガラガラだといいなぁ、茨城だしさすがにガラガラだろうなぁ、と思いながら会場へ向かいますと、そこには……

うわ、めちゃめちゃ人がいる!

まるでモータースポーツか何かのように、チームごとのテントが立ち並ぶ

競技者向けの部品や用具の販売も盛ん

人気観戦ポイントであるジャンプ台の前には人垣ができ、たくさんの人が走りを見守る

 茨城だし、自転車だし、そんなに人はいないだろう……などと舐めていたら、まったくの正反対。ものすごく本気の面々が大量に集まって何かのお祭りのようです。トップチームには東洋タイヤのような有名企業がスポンサーとなって支援を行ない、企業とチームの誇りを背負ってやってきています。イスやテーブル、扇風機に簡易ベッド、クーラーボックスや調理器具まで持ち込み、キャンプができそうなテントが村のように立ち並んでいるではないですか。手弁当でやっている感じではなく、「プロ」集団といった様相。  しかも、トップチーム以外からの参加者も多く、出場選手の数が尋常ではありません。年齢別にクラス分けされ、5歳から8歳という小学生のクラスから、上は40歳オーバーのクラスまで300名ほどの選手がこの大会には出場。特に、子どもたちのクラスは年齢ごとの区切りも細かく、それぞれの出場選手も多く、大変な盛況ぶりです。五輪を狙うエリートクラスは男子15名、女子2名という少数精鋭ですが、競技の裾野は広がっています。5歳なんて自転車乗れるだけでも立派なのに、もう大会に出ているだなんてスゴイ……。

子どもたちがすごいスピードで悪路を飛び跳ねていく

スキー競技のような面白さがあるBMXレース

 BMXレースの種目は6名から8名程度の選手が、急な下り坂となっているスタート地点から走り出し、バームと呼ばれるすり鉢状のコーナーや、細かいデコボコがつづくリズムセクション、大きなジャンプ台などを乗り越えてゴールを目指します。ジャンプ台からジャンプ台へと飛び移るセクションは、谷越えということでキャニオンなどと呼ばれ、自転車が空を飛びます。ゴールまでのレースタイムは短く、エリートクラスでは1レース30秒ほど。一斉に走るうえにコースがデコボコのため転倒も多く、巻き込み事故も頻繁に起こる激しい種目です。  レース展開としては、基本的に「先行逃げ切り」が強く、特にスタートの下り坂で先頭に立った選手が圧倒的に有利です。先頭に立てばコース取りも自由ですし、前を気にせず全力での加速もできるので、とにかくスタートが命。レース途中での逆転というのは少なく、その意味では漕ぐチカラというのは最重要項目ではない模様。漕いでどうこうなる感じではありません。  とかく自転車と聞くと「漕いで勝負」という印象になりますが、BMXはむしろスキーのような戦いぶり。スタートの坂道で得たスピードを殺さないように努める走りはアルペンスキーのようですし、細かいデコボコで自分の身体をバネとして衝撃を吸収する走りはモーグルのよう。そして、ジャンプ台ではなるべく最後まで踏み切りを粘って飛び出し、斜面の角度に合わせて着地するさまは、スキージャンプのようです。スタートで得たスピードを上手に使っていくことが大事なので、途中でちょっとでもリズムを乱すと、そこから先はグングン遅れていくという具合です。

小山のようなスタート台では、坂の途中の板に車体を引っ掛けて待ち、合図とともに板が倒れて走り出す

細かいデコボコでは後輪に体重をかけて飛び跳ねないようにおさえつける選手が多数

エリートクラスの選手はジャンプ台から大きく飛び出し、斜面の角度に合わせるように前輪を下げて着地を狙う

観覧車と重なって、まるで映画『E.T.』の一場面のような瞬間も

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醸し出されるパリピ感。穴場にはほど遠いBMX競技
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