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イベントでの芸能人の写真「SNS投稿禁止」について思うこと――鴻上尚史

事務所の方針なのは分かるけれど

012b5c994641b690118b294a160a84c3_s 自分の故郷を自分で言いますけど、地方都市です。そこに、映画の主演俳優が来た。田舎者は浮かれますね。で、地元に対するリップサービスを含めた素敵なスピーチを聞いた。けっこう、好きになるパターンです。  で、「写真はSNSに投稿してはいけない」といきなり、釘を刺される。好感を持ったからこそ、あっと言う間に急転直下、反感です。どうしてダメなのか、なんて芸能界事情は想像できませんからね。  監督がオッケーしている分だけ、「気取んじゃねえ」という反発になります。  この俳優さん個人には何の責任もないです。間違いなく事務所の方針です。  でね、ツイッターとかに写真を上げることを禁止するという事務所の方針の意味は分かるのですよ。  飲み屋でいきなり、ファンに迫られた。止めるまもなく、酔っぱらった赤い顔を写真に撮られた。それを上げられると、イメージが崩れる。  道を普段着で歩いていた。握手を求められて、写真を撮られた。このファンは大切にしたいけど、普段の姿を公に知られるのはまずい。  プライベートの時は、本人自身が何をしているのか知られたくない、というのもあるかもしれません。  僕は、芝居を見に来てくれた甲本ヒロトさんとツーショット写真を撮り、ただの素人みたいに「これ、ツイッターに上げていいですか?」と聞いて「ダメ」と言われたことがあります。いいんです。ファンはそれでもいいんです。僕のスマホにちゃんと残っているんですから。  という話はさておき、事務所のSNS投稿禁止の言い分はよく分かるし、納得できるシチュエイションも多いのですが、今回だけは、複雑な気持ちになりました。  また自分で言いますけど、田舎ですからね。集まっているのは、高齢者も含めた、ノンキな人が多いです。  都会でイベントをやって、みんなスマホを片手に、投稿したくてウズウズしてる、なんてことじゃないですからね。  あえて事務所の方針をアナウンスする意味はあるのか、同行しているはずのマネージャーは現場レベルの人で、事務所の方針に従っただけなのかと考え込みました。  結局、この主演俳優さんは、本人の懸命の努力にも関わらず、マイナスのパブになってしまったんじゃないかと、気配りのスピーチを聞いた後だったので、しみじみしたのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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