夕飯にスーパーの惣菜を出す母親は手抜きなのか?
― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―
イオンが「一家だんらん」のCMから、惣菜や生鮮食品を充実させた「夜市」のCMにシフトさせたとニュースになっていました。
「仕事帰りの母が娘の手を引いて、メンチカツを手に取る。家で食卓に並べれば娘も夫もにっこり笑顔」とか、「仕事を終えてイオンに立ち寄り、レンジでチンするだけのカレーを買って自宅で食べるサラリーマン」というCMです。
「母親がイオンの安売りで賢く食材を買い、料理をし、家族全員で夕飯を囲む」というCMは幻想を描いているんじゃないかという社内の声が始まりだそうです。
子供と共に惣菜を選ぶというのは、現在では全然珍しくないですが、CMとして打ち出すのは、なかなかに勇気がいると思います。
僕は、ちょっと前、朝日新聞に食に関するエッセーを書きました。
それは、共稼ぎだった母親の思い出です。
教師だった母親は、ブラックという意識もない時代でしたから、本当に夜遅くまで学校で働いていました。
結果、食卓には、スーパーの惣菜が並びました。
お前のソウル・フードは何かと聞かれたら、スーパーのちらし寿司とコロッケです。
インスタントラーメンもよく食べました。
ただし、母親は惣菜を買ってくると必ず、一手間、足しました。
といって、たいしたことではありません。
コロッケを買ってくると、キャベツを千切りにして横に添えました。
天ぷらの惣菜を買ってくると、天ぷらうどんにしました。
お刺身の場合は、プラスチックのトレイから、お皿に移しました。
子供にとって、それだけで、それは「スーパーの惣菜・刺身」から「母親の料理」になったのです。
僕には、なんの不満もありませんでした。
それはなによりも、母親が教師という仕事に充実していることが感じられたからです。

スーパーの惣菜も小さな一手間で「母親の料理」
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