更新日:2019年01月25日 00:29
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「小池都知事のバンクシー保護、おかしくない?」と現役グラフィティ・ライターは語った/グラフィティの諸問題を巡る現役ライター・VERYONEとの対話 第1回

あれ? このステッカー、イタリアでも写真を撮ってるぞ

 ある日のことだ。撮り溜めた写真を見返していると、あることに気がついた。 「あれ? このヘンな魚の絵と日本語のある貼り紙、フィレンツェで撮影したな」

2017年1月にイタリア・フィレンツェで撮影した貼り紙

「限られました」と日本語で書かれている。イギリスの人気ブランド「Superdry極度乾燥(しなさい)」を思い起こさせる。2017年1月にイタリア・フィレンツェで撮影

2017年7月に東京で撮影した魚のステッカー。実は東京の至るところにある。ちょっとだけネットで検索して「バンドなのかな?」という情報に行き当たり、本文中に書いてある理由で速攻、情報を掘るのをやめた

びっくりぐらいいろんなところに貼られている、魚のステッカー 2017年7月、東京にて撮影

 2017年の正月にイタリアに行ったときに「こんなところにヘンな日本語の貼り紙がある」と撮影したものと、ほぼ同じものを見つけたのだ。  イギリスの覆面アーティスト・バンクシーの存在は知っている。そして、「LUSHSUX」というどの国の人か分からない外国人がいるのはこの間、知ってしまった(今は国名も知っている)。そして、この魚のステッカーを世界中に貼って回っている人、ないしは集団がいるんだろう。この魚はどうも日本人がつくったんじゃなさそうな気がする。  この人たちは何なんだ? アーティストなの? でも、落書きをしたりステッカーを勝手に貼って回っているような人たちでしょ。こんなことをしている人たちは、きっとヤバい人たちに違いない。積極的にその世界を知ろうとしない限り、グラフィティをやっている人たちと出会うこともあるまい。  そんなことを思っていたのだが、蛇の道は蛇というべきか、ひょんなきっかけで、現役の、しかもかなりのキャリアがあり、その世界では著名だというVERYONEに出会うことになったのだ。  さんざん引っ張っといて申し訳ないが、どのようにして彼と出会ったのかは書けない。ただ、何かヒヤヒヤしたようなことがあったわけでもない。そして、しょっちゅう会っているわけでもないが、ここからは、普段、彼をそう呼んでいるようにヴェリーさんと書かせてもらう。  そして、私がよく知っているグラフィティ・ライターはヴェリーさん一人だ。何人かは見かけたことがあるが、きちんと話をしたのは彼だけで、現時点でそれ以上は広げるつもりもない。たまたまの縁があった、ということだ。  本来であれば、このようにグラフィティの世界を記事にしていくならば、さらなる調査や文献資料などを漁り、その全体像をおぼろげながらでも描き出していかなければいけないだろう。そして、警察や自治体、グラフィティに迷惑をしている人たちなどの取材もしなくてはいけないだろう。というか、そうすべきだ。  だが、このシリーズでは、敢えてそれをやめてみようと思う。  グラフィティの写真を「趣味で」撮り始めたものの今もよくわかっていない「外部の男」と、その世界で著名だという「内部の男」であるグラフィティ・ライター。この2人の対話を通じて、その世界を垣間見ていきたいのだ。  なので、このシリーズにはヴェリーさんとその周辺の数人(しかも名は伏す)の話しか出てこない。はっきり言って、一般的な記事づくりの常識から考えると、かなり妙な記事になることは間違いない。  きっと、書き進めていくうちに詳しい方のなかには、「こんなことも知らないの」と思われる方もいるだろう。一応、ヴェリーさんの確認はとるが、間違っていることも書いてしまうかもしれない。何しろ、私は一番最初の原稿を書いたときに「グラフィティ」を「グラフティ」と書いていたのを、ヴェリーさんに指摘されたぐらいだ。1年半も撮影していて、「グラフティ」が正しい表記だと思いこんでいたぐらい、この世界のことを、まったく知らないようにしてきた。  だが、このヴェリーさんとの「たまたまの出会い」でいろんな疑問が氷解した。そして、新たな疑問も湧いてきた。  それを、書いていきたい。グラフィティに人生をかけてきた、ある一人の男の証言を伝えるのが、大きな目標だ。  そして、この奇妙な対話を通じて、「グラフィティとかいったって、違法行為だろ」「なんでバンクシーの作品だけ特別扱いされるんだ」「そもそも、落書きがなんでアートになるの?」という、多くの人が当然感じるであろう疑問を考えるヒントを提供できれば、と思う。  キーワードは「迷惑行為・違法行為」と「アートとは何か」そして、「『アートに回収されてたまるか』とストリートで蠢く人々の考え方」だ。  繰り返すが、冒頭に触れた「小池都知事のバンクシー作品の保護は是か非か」は、このシリーズを書き進めるうちに、我々2人の意見の相違などで見えてくるものがあると思う。 ※次回に続く。次回は大阪でのバンクシー「作品」探しのルポになる予定です 取材・文・撮影/織田曜一郎(週刊SPA!)
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