ライフ

グラフィティの著作権ってどうなってるの? ゲーム『荒野行動』は「著作者人格権」を侵害しているのか<グラフィティの諸問題を巡る現役ライター・VERYONEとの対話>第3回

「あれ? グラフィティってもしかして著作権がないのかも!?」という「仮説」

 このように、当事者にとっては「労多くして功少なし」が裁判というものの常だが、「もしも、ヴェリーさんが本当に訴えた場合、どのようなところが争点になるだろうか?」と考えながら、著作権法を読み直してみた。すると、私にとって驚くべき法文を発見してしまったのだ。後述するが、以下に記すことは飽くまで弁護士でも専門家でもない私が、弊社の法務経験者に確認しながら考えていったものであることをご了承いただきたい。ここで提示した疑問点は、今後、専門家に取材して検証していく予定だ。煩雑になるので、箇条書きにしていく。

何の法律もそうだが、著作権法について完全に理解するのは一般人にはなかなか難しい

・日本の著作権法は日本国内とベルヌ条約(著作権保護のための国際的な条約)加盟国での作品にしか適応されないが、インドネシアは加盟しているだろうか? →加盟している。 ・つい先日、2018年12月30日まで著作権は「親告罪」だったが、TPP批准で「一部非親告罪化」された。このケースで警察が動くようなことは理屈上あるのか? →「非親告罪」のケースにはおそらく当たらないし、当たったとしても実際に警察が動くようなことはないだろう。 ・親告罪ならば6か月以内に訴える必要があると聞いたことがあるが(刑事訴訟法235条)、この場合はどうなる? →6か月以内は刑事裁判。民事ならば3年以内。  とまぁ、素人考えでいろいろと検討していたのだが、著作権法45条、46条を読んで、固まってしまった。「美術の著作物」では「屋外の場所に恒常的に設置されているもの」は「利用することができる」と書いてあったのだ!! となると、壁画やグラフィティなどは使われ放題、ということなのだろうか?(法文は参考として原稿の末尾に掲示する)  だが、今回のヴェリーさんのケースは「同一性の保持」が問題となっている。この件に関しては、「やはり問題はある」と法務経験者は語る。 「著作権法46条ですが、公開の美術の著作物等は、条文でたしかに方法を問わず利用できるので、それを取りこんでゲームに使うこと自体は問題なし。『方法を問わず』とあるので、理屈としては翻案(変形含む)も可能だけれど、その場合でも著作者人格権は存在します。  著作権には経済的権利と著作者人格権の2つの側面があり、利用というのはもっぱら経済的権利に関することですが、その場合でも著作者人格権は別個に存在し、勝手に改変されない権利はこれに含まれます。利用の場合の翻案というと、たとえば写真に撮ったら一部切れちゃったとかいうのも、本来なら同一性保持権侵害になりかねないのだけれど、公開の著作物の場合はそれはかまわないと解釈されるということ。しかし、著作者の意に反して絵柄を反転したり、手を加えたりすることは、著作者人格権(なかでも同一性保持権)の侵害になると思われます」  これが、現時点での我々の見解だ。

街中に書かれたグラフィティ

 しかし、どうも、グラフィティに関しては著作権というものは存在しないのではないか?(厳密には著作者人格権はあるが、利用され放題ではないか?) だが、バンクシーの作品とかはどうなっているんだ? 美術品としての売買の場合はどうなっているんだ? さまざまな疑問が湧いてくる。  第1回で「このシリーズではヴェリーさんとの対話のみを通じて、グラフィティの世界を垣間見ていく」という意思表明をしていたのだが、やはり専門家に取材をしていかねばならないだろう、と考えを改めることにした。この件に関しては、さらなる取材を続け、数回後に改めてリポートしていく。  このシリーズでは私が「グラフィティの情報を遮断しながら、ヴェリーさんとの対話だけで物語を紡いでいく」というコンセプトに勝手な面白みを見出していたが、これも崩さざるを得ないだろう。ただ、この原稿を根拠に「グラフィティなんて使いたい放題じゃん」と考えるのもまだ早計である。これは飽くまでまだ「仮説の提示」だ。また法的にもし問題なかったとしても、別の問題がふりかかりかねないかもしれないことは、警告させていただこう。  本来であれば、今回からストリートに生きるヴェリーさんの思想や生き様を本人の言葉を元にたっぷりと紹介していくつもりだったのだが、思わぬ疑問から、長大に、堅苦しい話に脱線してしまった。次回以降、しばらくはヴェリーさんのライフストーリーに集中していく。

【参考 著作権法第45条と第46条】

(美術の著作物等の原作品の所有者による展示) 第四十五条 美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる。 2 前項の規定は、美術の著作物の原作品を街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合には、適用しない。 (公開の美術の著作物等の利用) 第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。 一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合 二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合 三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合 四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合 (平十一法七七・一号二号四号一部改正) ※次回に続く。次回はヴェリーさんがストリートに出るようになったきっかけに迫る予定です。 取材・文・撮影/織田曜一郎(週刊SPA!)
1
2
3
おすすめ記事