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虐待についてのツイートが百万超もバズった件/鴻上尚史

― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

虐待についてのツイートが百万超もバズった件

「僕は作家なので想像力はそれなりにあると思っていたのだが、子供を持って初めて『虐待によって殺された子供のニュース』がつらすぎて、なるべくなら見たり聞いたりしたくないという気持ちになる。子供を持つまでこんな気持ちになるなんて夢にも思わなかった。自分の想像力なんて大したことないと思った」  というツイートをしたらバズりました。「インプレッション」というユーザーに表示された回数が、百万を超しました。すると、いろんなツイートが飛んできました。 「私には子供がいませんが、つらいです」とか「虐待から目を背けないで下さい!」とか「子供を持たないと分からないと言いたいのですか!」とか「子供を持ちたくても持てない人を傷つけていることが分からないのか」とか、まあ、香ばしいのがたくさんきました。 「ブレイクすることは、バカに見つかること」と言ったのは、有吉弘行さんだったでしょうか。  百万を超すと、本当に予想外のツイートが飛んできます。これもまた、自分の想像力なんてちっぽけなものなんだなあと思わされます。 「子供を持てない人を傷つける、こんなツイートはしないように気をつけよう」というのもありました。  このツイートは、想像力について語ったものです。(とまあ、あらためて書くのもナンなんですが)  僕自身、子供を持つことでこんなに胸潰れるような気持ちになるとは、夢にも思いませんでした。  もちろん、子供を持つ前から、虐待のニュースはとても悲しく感じました。けれど、子供を持つと、その感覚が想像のはるか上だったのです。  で、「当事者にならないと分からないことってあるんだなあ。悔しいけれど、どんなに想像力を働かせても、当事者の思いに届かないことってあるんだなあ」と感じたのです。 「震災にあった人の気持ちも、ガンを宣告された人の気持ちも、子供を交通事故で亡くした人の気持ちも、許されない恋に落ちてしまった人の気持ちも、親を介護している人の気持ちも、どんなに想像力を働かせても分からない部分があるんだろうなあ」  この発見は驚きでしたが、けれど、ネガティブなことではないと感じました。
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想像力の限界を知り謙虚になれる
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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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