ライフ

虐待についてのツイートが百万超もバズった件/鴻上尚史

想像力の限界を知り謙虚になれる

 この発見によって、僕は謙虚になる自分を発見したのです。 「どんなに想像力を働かせても分からないことがあるんだ。当事者の気持ちに届かないんだ」  そう思えれば、「きっと、私が想像する以上につらいんだろうな。私が単純に想像するレベルじゃないんだろうな」と思えるのです。 「どんなに想像力を働かせても、当事者の実感にかなわない」ということは、つまりは「自分の想像力で他人の感情や状況を判断してはいけない。たいていの場合、当事者の苦しみは、自分の想像力の結果より、はるかに深い」ということを教えてくれるのです。  どんなことでも、一度、自分が当事者になると、その時の気持ちに自分で驚きます。そして、当事者になる前の自分は、分かっていたと思っていたけれど、分かっていなかったんだなと気付くことができるのです。  去年の11月、母親が脳梗塞で倒れました。  それまで「脳梗塞」という単語は、ドラマの中にしか出てこないものでした。  故郷で倒れ、飛行機に飛び乗り、病院にかけつければ、そこには、半身が麻痺し、意識がない母親がいました。  その姿を見た瞬間、涙が溢れてきました。が、泣いてる場合ではないので、感情を押し殺しました。  あの時から、親を介護している人の話や親が亡くなった人の話は、胸に迫るようになりました。  そして、本当に大変だなと、感じるようになりました。  蛇足ながら、「子供を産めない人を傷つけて平気なのか!」というようなツイートに対して、僕の代わりに「鴻上はそういうことを言いたかったんじゃない」と、たくさんの人が嘆きつつ書いてくれました。  でもまあ、こういうツイートは、数百ほどでした。全体では百万ですから、とんでもないツイートをする人は、全体の0.1%もいないと考えられます。これは、希望だと僕は思っています。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
1
2

この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

おすすめ記事