更新日:2023年03月20日 11:15
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群馬県・前橋中心街が、今なぜかアーティストだらけの強烈な個性の街に

前橋は「昔のベルリン」みたいな街!?

 さて、この「路上展示」があった場所から弁天通りを南に戻って大蓮寺を通り過ぎると、すぐに左手に「ヤーギンズ(ya-gins)」という小さなギャラリーがある。ここで現在、開催されているのが前橋在住のフランス人アーティスト、ジル・スタッサールさんの個展「Genealogy」だ。パリの現代美術館パレ・ド・トーキョーで2年間、「アート作品としてのレストラン」を大ヒットさせるなど華々しい経歴を持つアーティストで、世界を股にかけて活躍している人物だ。  ジルさんには「食」をテーマにした作品が多いが、今回の個展で展示しているのは「木の棒にしか見えないブロンズ彫刻」などだ。個展開催前に、これまた弁天通りにあるアトリエで取材をした我々に、ジルさんは「個展タイトルの『Genealogy』は『樹形図』という意味合いです。今日お見せするのはこれ。2本の木をブロンズ彫刻にしたんですよ。こっちがアダムで、こっちがイブ(写真をよく見ていただけれぱ、どちらが「アダム」なのかお分かりになるかもしれない)」と、一見、木の枝にしか見えないがずっしりと重いブロンズを持たせてくれた。

アトリエで作成中の木の枝をブロンズにした彫刻、アダムとイブを手に熱心に作品解説をしてくれるジルさん 2019年3月2日撮影

 そして、いったん前橋中心街から遠く離れてしまうが、赤城山のふもとでは今回のジルさんの作品のブロンズ鋳造をした熊井淳一さんという彫刻家が、ヤギを飼いながら鋳造工房を営んでいる。実際にお会いすると、ブロンズの鋳造のステップから工房での事故の話まで、素人の我々に熱心に教えてくれる情熱溢れる方だった(熊井さんに聞いた興味深いお話の数々は、いずれ稿を改めてご紹介したい)。

工房で「細い枝の型を取り、ブロンズ鋳造することの難しさ」を語ってくれた熊井さん 2019年3月2日撮影

 さて、前橋中心街の話に戻ろう。ぐるっと回っても約2キロ、ざっくりと500メートル四方ほどのエリア(具体的には広瀬川、国道17号線、国道50号線、八展通りで囲んだエリア)の中に、2013年にオープンした前橋市が運営する美術館「アーツ前橋」があり、さらにはこれまでに紹介した以外にも、ギャラリーやアートスペースなどが点在している。  ジルさんはこの今の前橋の状況を「昔のベルリンみたいな街ですね。ただし『小さいベルリン』だけど(笑)」と言う。ベルリンはアーティストが数多く住む「道を歩けばアーティストに出会う」街として知られているらしい。そして、前橋の中心街もまた、何回か通うと知り合ったアーティストとすれ違うことが多い。確かに狭いエリアだが、逆にこの狭いエリアにこんなにもアーティストがいる、というのが不思議でもある。
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前橋をアートの街にした人々
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※ジル・スタッサールの個展が群馬県前橋市で開催中
ya-gins vol.33 Gilles Stassart「Genealogy」
会場:ya-gins
住所:〒371-0022 群馬県前橋市千代田町3-9-2弁天通りアーケード内
会期:2019年4月28日まで
オープン毎週 金・土・日曜
時間:13:00-20:00
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