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『湯を沸かすほどの熱い愛』で大ブレイクした中野量太監督が明かす“人を感動させる法則”

 宮沢りえが余命わずかながら家族のために身を削って奔走する母親を熱演して話題となった、’16年公開の映画『湯を沸かすほどの熱い愛』。これが商業映画デビューとなった中野量太監督の、メジャー2作目となる映画『長いお別れ』が5月31日から公開される。認知症を患った父(山﨑努)と妻(松原智恵子)、2人の娘(竹内結子、蒼井優)、孫たちの姿を繊細なタッチで描いたこの作品。これまで一貫して“家族”を撮ってきた彼が、本作で提示した家族の姿とは、どんなものなのか。

42歳で商業映画デビューした新鋭監督が明かす“人を感動させる法則”

――本作では、70歳の誕生日をきっかけに認知症が少しずつ進行し、やがて家族の顔も忘れていく山﨑努さんの芝居がとても印象的でした。 中野:山﨑さんは僕が書いた脚本をとても気に入ってくださって。噂では“怖い人”だと聞いていましたが、それを聞いた時点で「半分勝ったな」と(笑)。最初にお会いしたときはもちろん緊張しましたけど、『湯を沸かすほどの熱い愛』とその前の『チチを撮りに』を褒めていただき、お酒も入って嬉しくなって、最後は僕からハグしてたらしいです(笑)。 後日、ご自宅にお招きいただき、飲みながら映画の話をたくさんしました。撮影現場ではもちろん一度も山﨑さんを「怖い」と思ったことはないですし、監督として言いたいことを言えなかったこともありませんでした。 ――認知症というテーマはかなりデリケートな部分もあると思うのですが、心がけたことはありますか。 中野:今回、認知症を扱うにあたってどういう映画を撮ろうかと話し合った際、「今の時代の認知症を描いた映画を撮ろう」と決めました。昔は認知症というと、家族のことが突然わからなくなって、みんなツラくて、映画でも「どうしてなの、お父さん!」みたいな表現が多かったと思うんです。でも、取材したお医者さんが言うには、「認知症は病気なんだから、自分の妻や子どものことを忘れてしまうのは当たり前である」と。 でも、今、目の前にいる人が自分にとって大切な存在だということは忘れないそうなんです。その話を聞いて、「お父さんがボケて大変だ」と嘆くような表現はいっさいやめようと思いました。 ――そうだったんですね。 中野:もちろん「そんなキレイごとだけじゃない」というご意見もあると思いますが、今回の作品ではわざわざ切り取っていないだけで、映ってない部分でみんな大変な苦労をしているのだと思ってください。唯一、具体的な場面として、次女の芙美(蒼井優)が父のパンツを脱がすシーンがありますが、そこに苦労の表現は集約させたつもりです。 ――前作『湯を沸かす~』でも、最期が近い双葉(宮沢りえ)に人間ピラミッドでエールを送るシーンなど、監督独自の“泣いてしまう”演出が随所にちりばめられていましたが、ああした演出の発想はどこから? 中野:人間って、「もしかしてこれ、現実にありえるんじゃないか」とギリギリ思えるラインを見たときに感動すると僕は思うんです。いきなりやったら9割の人が「こんなことありえないよ」と思う表現でも、丁寧に積み重ねて描き、最後の最後に「これ、あるかも」と思ったときの感動ってものすごいんじゃないかと。 ある程度知っている感覚を提示されても、ある程度の感動しかない。じゃあ人は何に感動するのかといったら、「もしかして人間ってこんなことをするかもしれない」というギリギリのラインが本当に見えたときなんじゃないかって。
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