ついに出会えた、戸越銀座の夜の素顔
いよいよ夜も深まってきた。我々には行かなければならない(と勝手に決めた)スナックがある。戸越銀座駅方面へと戻り、再び「スナック あさひ」の前までやってきた。
黒猫によるお出迎えも幸先が良い
いよいよ地下へ……
情報量の少なさが不穏なドア
重い扉を、ゆっくりと開ける。すると、そこに待っていたのは……。
想像を超えるディープ&カオス空間
かなり広い店内の中央にカウンター。壁に沿ってテーブル席がたっぷり。カウンターには地元の常連と思しき先輩がたがみっしり。4人くらいいる店員さんも常に忙しそうで、なんだか非現実的なにぎわいだ。これぞ我々が味わいたいと思っていた、戸越銀座という街の、生の、リアルな、人々のいぶき渦巻く酒の桃源郷!
さっそく常連のマダムに興味を持たれる清野氏
これぞスナックという光景
定番の歌謡曲を歌う方もいれば
アンドレア・ボチェッリの「Con Te Partiro」(サラ・ブライトマンと共演してヒットした「Time To Say Goodbye」の原曲)を熱唱する紳士も
パリ:わはは! この期待以上な空気。むしろ「予定調和」という言葉すら思い浮かびます。
清野:最後の1か所に役者が集約されてる感じ、好きだな~。店内に一歩入った瞬間、「みなさまがた、ここにいらっしゃったんですか~!」と声をあげたくなりましたよ(笑)。
パリ:再開発によって行き場を失った人たち全員(笑)。
清野:戸越銀座の第一印象も、今ふり返ると、「普通じゃない部分、どこにあるか探してごらん?」というゲームみたいに思えてきました。
パリ:そうだったのか!
清野:この店を一言で表すとなんだろう……戸越銀座の良心……掃き溜め……いや、「巣」かな(笑)。
パリ:うんうん、思わず「ただいま!」って言いたくなる。
清野:ですね。とにかく、居心地はとんでもなくいいです。
入店した時の「やっと逢えたね」感がすごかった。初入店&初対面の人たちなのに(清野)
新入りの我々に向かってダンスを披露してくれる常連のおふたり
ラララ〜♪
クルッ
ビシッ!
なんて人生を楽しまれているんだろう! と感激しつつ拍手していると、
「あれ? なんか急にこっちに……」
結果、
こうなりました!
「じゃあ僕はこっちのお兄さんと踊ろうかな〜」
みんな自由すぎ!
もちろん編集井野氏もかりだされる
高身長で姿勢の良い井野氏が、経験者にしか見えない
清野さんも、どっかでやってました?
もうめちゃくちゃ
こうしてゲラゲラ笑いながら、無駄に長くこの店で飲みつつ、夜はどこまでもふけてゆくのだった――。
人生初の、スナックでの「踊り」踊り始めは単に恥ずかしいだけだったけど、やがて恥ずかしさの先にある恍惚感のようなものに陶酔した。これからも、隙あらば率先して踊っていこうとも思った。でも、スナックから一歩出た瞬間、恍惚感は消えて、恥ずかしさだけが残った(清野)
一見、きらびやかにリニューアルされた街にだって、きっとどこかに、昔ながらの顔が取り残されている。そして、そんな酒場こそが自分たちにとっては最高におもしろい。そんな確信を強くさせてくれた、戸越銀座の夜だった。
<TEXT/パリッコ イラスト/清野とおる>
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):
@paricco