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株式市場で出し抜くために1600kmの直線光ファイバー敷設に挑む男たち/藤沢数希

―[モテる映画工学]―
~映画『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』~
ハミングバード・プロジェクト0.001秒の男たち

©2018 Earthlings Productions Inc./Belga Productions

株式市場で出し抜くために1600kmの直線光ファイバー敷設に挑む男たち

 僕は物理学の博士だし、金融機関でずっと働いていたので、SFやビジネスをテーマにする映画が苦手だ。そんな物理法則に反することが起こるわけないだろと突っ込んだり、実際のビジネスではそんなことはしないとかいろいろ引っかかってゲンナリしてしまうのだ。  しかしこの映画はそのへんのディテールで引っかかることなく、なかなかの完成度だった。  トレーディングには多様な戦略があるが、明らかに儲かる裁定機会では単にほかより速く市場に注文を通せるかどうかで決まる。完全にコンピュータ制御されている世界だが、最終的には回線の物理的速度がものをいう。  主人公たちはカンザス州のデータセンターとニューヨークの株式市場を直線光ファイバーで繫げば年間500億円は軽く儲けられることに気づき、通信インフラの大企業を辞め、ハミングバード(ハチドリ)プロジェクトを推し進めていくという実話だ。  カンザスからニューヨークまで光が届くのにかかる時間はハチドリの羽ばたき1回分にも満たない。それをさらに0.001秒縮めれば大金が転がり込んでくる!  主人公のヴィンセントはこのプロジェクトのことだけ取り憑かれたように年中考えている起業家だ。そして、彼の相棒の天才エンジニアもオタクで、ずっと一人で通信速度を0.001秒縮めるためのコードを考え続けている。  キラキラやウェーイとは無縁だ。科学やビジネスの世界で認められ、上に引き上げられる男とはこういう地味で、ある意味でコミュ障なのだが、普通の若い女にモテるためにキラキラやウェーイも時には必要なのだ。そこに男の人生の難しさがある。
―[モテる映画工学]―
理論物理学研究者、外資系金融機関を経て、作家。メルマガ「週刊金融日記」は読者数1万人、ツイッターのフォロワーは14万人を超える。最新刊『損する結婚 儲かる離婚』が発売中

ハミングバード・プロジェクト0.001秒の男たち
配給/ショウゲート
監督/キム・グエン 出演/ジェシー・アイゼンバーグほか
9月27日より全国公開
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