仕事

年収1500万円を捨て、借金1億円で会社を買収した男の考え

事業を引き継いだ直後に先代社長が急逝してしまう

 週末通いを続けて半年した頃には山田社長の頭はすっかりM&Aに染まっていた。先代社長との合意額は1.5億円。一部は自己資金を入れたが、大部分は信用金庫からの融資で賄ったという。 「ただ、当時は事業承継なんて言葉も広まってない頃で、唯一話を聞いてくれたのが信用金庫。彼らの顧客は多くが中小企業ですから、『今後もっと増やさないといけない事例だ』と、前例にしたい意味合いもあって融資してくれました」 泉美 そうして2代目になった山田社長を不幸が襲う。買収後も先代社長が相談役として残るはずだったのが、なんと継いでからわずか4か月後に急逝してしまったのだ。 「残されたのは僕と職人として長く働いてきた年長社員の3人だけ。一から関係性を築く必要があったし、何より業務上の会話も専門的で理解しきれない状態で。1年目はとにかく何もしないことに徹底しました。変えたいことはたくさんありましたけど、残ってくれた社員が働きやすいように先代のやり方を踏襲しようとしたんです」  少しずつ自分らしさを経営に注入して3年目。今では山田社長が主導して採用した20代社員も3人入り、会社は若返りの途中だ。
山田有孝社長

3年で売り上げの半分が新規客に入れ替わり、事業は現在美容卸商社やITなどに拡張中。山田さんが大切にしているのは「ゆっくり一つ一つ変えていくこと」

「中小企業って今、黒字なのに後継者がいなくてバタバタと倒産・廃業してるんですよ。僕が社長になってからも取引先がすでに数社なくなりました。僕がそのままモデルケースになれるとは思いませんが、外部から後継者を入れる事例は増えていいと思います。ゼロから起業するのは向いてなくても、今ある会社を1から10や100にする能力を持った人は、サラリーマンにこそ多いと思いますから」  山田社長の体験談は将来に悩む会社員のみならず、後継者選びに踏み出せない多くの廃業危機企業の社長の背中も押すことだろう。 <取材・文/吉岡俊 鈴木俊之 東田俊介 岩辺智博 撮影/水野善之 渡辺秀之 イラスト/bambeam>
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