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静岡市のAI相乗りタクシー、実証実験では不備の多さばかりが目立つ結果に…

 静岡県静岡市で、AI連動の相乗りタクシーの実証実験が始まった。これは11月1日から1か月をかけて行われるもので、静岡市内でのMaaS整備(「Mobility as a Service」の略語。全ての乗り物をサービスとして提供しようという概念)に向けた重要な布石でもある。従来までの「1乗車1契約」というタクシーの原則を覆し、1台の車両に不特定多数の利用者が同時乗車できるよう施されている。当然、利用者毎に乗車地も行き先も違う。そこでAIが走行ルートを算出し、効率的なピックアップを実現するという仕組みだ。相乗りだから、料金も従来型タクシーより25%程度安くなる。しかし、この実証実験には多数の不備が見受けられる。

PR不足が招いた「モニター不足」

AIタクシー 日本は「ライドシェア後進国」と言われている。運営会社が一般ドライバーと業務契約を交わすライドシェアは、格安の利用料金と完全オンラインの利便性が相成って世界各国で受け入れられている。アメリカのUber、中国のDiDi、シンガポールのGrab、インドネシアのGo-Jek。だが日本では「自家用自動車の有償運行」を厳しく規制しているため、今でもライドシェアサービスが確立していない。  AI相乗りタクシーは、言わば「ライドシェアに代わる手段」なのだ。  静岡市でのAIタクシー実証実験は、というよりAIタクシーを含めたMaaSの市内での実用化は、田辺信宏静岡市長が公約として掲げている。今年4月の静岡市長選挙でも、田辺陣営の配布したマニフェストにMaaSの説明があった。  此度の実証実験は、まさに鳴り物入り……と言いたいところだが、実のところAIタクシーの存在そのものが静岡市民にあまり知られていない。 「今のところ、実証実験のモニターとして登録しているお客様はせいぜい120人ほどだと聞いています。それが実験終了までに200人程度になるのでは、という見込みだそうです」  そう語るのは、AIタクシーの運転手。曰く、11月1日から筆者が取材を行った同月5日まで、「モニターからのオーダーは1日1回あるかないか」だそうだ。 「我々は通常の業務と並行して今回の実証実験に参画しています。正直、相乗りタクシーとしての利用は多いとは言えません」  筆者の手元には、『静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト』が今年6月に発行したプレスリリースがある。それによると、静岡市でのAIタクシー実証実験は「1000人以上のモニターを確保して」実施するとある。  が、実際には1000人はおろか200人も集まっていないという。一般モニターは静鉄グループが発行する電子マネーカード『LuLuCa』の会員ではあるが、実証実験に関する静岡市と市内企業のPR不足によるものが大きいのかもしれない。

クレジットカード変更不可

AIタクシー 実証実験に参加するモニターは、ユーザーページからオンライン配車のプラットフォームに入る。スマホアプリはまだ用意されておらず、そのプラットフォームはブラウザ上の「疑似アプリ」というべきもの。1か月限定の実証実験だから、これについては無理もないだろう。  問題はここからだ。モニターは事前に決済用クレジットカードをオンライン登録するのだが、何とこれは一度登録したら他のカードに変更することができない。つまり1アカウント1カードなのだ。  Uber、Grab、Go-Jekと、筆者は国外で様々なライドシェアサービスを日常的に利用した。これらのアプリでは、クレジットカードやデビットカードは複数枚登録できるのが普通だ。その仕組みはライドシェアに留まらず、Amazonのようなオンライン通販サービスを利用していれば理解できるだろう。  ところが、此度のAIタクシーのアカウントページでは、決済用カードの情報を変更する項目そのものがない。もし再発行等でカード番号が変わってしまったら、一体どうすればいいのか?  それに関して、筆者はコールセンターに問い合わせた。が、そのコールセンターも問題である。というのも、080から始まる携帯電話番号なのだ。「センター」などというものではない。 AIタクシー「別のクレジットカードを登録する場合は、新しいアカウントを作っていただく必要があります」  このようなコールセンターからの回答であるが、いくら実証実験とはいえユーザーの利便性を無視しているとしか思えないプラットフォーム設計である。
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「今、どこにいますか?」ができない
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【参考】 しずおかMaaS
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