○敗者復活戦経験組
ダイタク(吉本興業)
《昨年準々決勝敗退、敗者復活戦経験1回(2015年)》
ツッコミ担当の弟吉本拓、ボケ担当の兄吉本大からなる吉本興業所属の双子コンビである。「双子」という部分は芸人として「売り」になる部分ではあるが、「ネタ」に関していえば、幅を利かせることができず、マイナスに作用する人たちもいる。しかし、そんな心配は「ダイタク」には無縁である。「双子」を活かして巧みに作り上げられたネタは、もはや「ダイタク文学」と言ってもいいほど完成度は高い。
ただ、巧みさゆえに内容が少し複雑になりすぎる部分があり、その分、観客に負担を強いるところがある。そして、物語で進められていくようなネタは2度目の鮮度がガクッと落ちる傾向にある。この部分を彼らはどう捉えて敗者復活戦に挑むのか。楽しみである。
錦鯉(SMA)
《昨年準々決勝敗退、敗者復活戦経験1回(2016年)》
ツッコミ担当渡辺隆、ボケ担当長谷川雅紀からなるSMA所属のコンビである。渡辺君は41歳、雅紀さんはなんと俺の1歳上である48歳という最年長コンビだ。そんな最年長の雅紀さんが放つボケは、敗者復活戦出場者のなかで一番「アホ」で「バカ」だから面白い。
今年、彼らのライブにゲストとして参加させていただいた。そのときに見た3本のネタは「アホ」で「バカ」なのだが、「センス」も感じられてオールド感は一切なく「ナウい」のだ。そのボケに対して渡辺君のツッコミは鋭く……いや、鋭いどころか頭をぶん殴ってツッコむド迫力。新世代が居並ぶ決勝の舞台に50近いオッサンが暴れまわる。そんな決勝を見てみたい。
セルライトスパ(吉本興業)
《昨年準々決勝敗退、敗者復活戦経験2回(2015、2017年)》
ツッコミ担当肥後裕之、ボケ担当大須賀健剛からなる吉本興業所属のコンビである。準決勝で観た「セルライトスパ」はネタの出来がよく、俺自身は「決勝に行ったのでは?」と思ったが彼らは敗退した。
なぜ俺の予想が外れたのか家に帰って考えて気がついた。俺自身が「セルライトスパ」が好きなのだ。 特に2人が放つ雰囲気がとても心地いい。イチ観客として贔屓目で見ていたのかもしれない。過去にさまざまなネタを見たが、常に「セルライトスパ」のネタの出来はよく「安定」している。
ただ、この「安定」という言葉は「M-1グランプリ」にとって必要な言葉ではないのかもしれない。見た目からしてボケな大須賀君のボケはトリッキーで、肥後君は的確にツッコむ。絶対外さない。だからすべてのネタの水準は高い。敗者復活戦の舞台で、「安定」の1歩先を超えた彼らが見せられたときに、決勝への道は必ず開かれる。
東京ホテイソン(グレープカンパニー)
《昨年準決勝敗退、敗者復活戦経験2回(2017、2018年)》
ツッコミ担当たける、ボケ担当ショーゴからなるグレープカンパニー所属のコンビである。たける君は幼い頃から岡山の伝統芸能である「備中神楽(びっちゅうかぐら)」を習っていたことから、それを使って舞台せましとツッコミ傾くのが特徴的なコンビだ。
今回で3年連続敗者復活戦出場である。あえて書く。これは不名誉なことである。昨年の準決勝、吉本以外の事務所の「枠」があるならば、俺の見方では確実に「トム・ブラウン」と争ったのが彼らである。結果は11位。あと2歩足りなかった。忸怩たる思いだっただろう。そして、今回も決勝進出を逃した。
今年、彼らと仕事をする機会があった。泊まりの仕事で時間に余裕もあり、じっくり話をすることができた。俺は「ある事」をネタを書いているショーゴ君に聞いた。内容は「東京ホテイソン」にとって重要なことなので書けないが、嫌がられることかもしれないことを承知であえて聞いてみた。
ショーゴ君は信念に基づいて、このスタイルで漫才をしている。ブレることなく漫才をしている。そのことがわかった。ショーゴ君はとても強かった。その強さがあるならば、結果は必ずついてくる。敗者復活戦の舞台で、傾け! 東京ホテイソン!!
アインシュタイン(吉本興業)
《昨年準々決勝敗退、敗者復活戦経験3回(2015~2017年)》
ツッコミ担当河井ゆずる、ボケ担当稲田直樹からなる吉本興業所属のコンビである。今年、4年ぶりに復活した「よしもと男前ブサイクランキング」。そのブサイク部門で2位に約13万票の大差をつけてぶっちぎりの1位を獲得した稲田君と、男前部門で3位に入った河井君という好対照の2人は、関西ではすでにお馴染みの顔であり、漫才師としても数多くの賞を獲得している実力派である。
今年、全国的にブレイクを果たした。
前回の記事を書いたあと、いろいろな人と「M-1グランプリ」の話をした。そのなかで異口同音だったことがある。それは「『アインシュタイン』はそのまま決勝へ進出させてもよかったのではないか」ということだった。
全国的なブレイクを果たし、最高の状態で迎えた「M-1グランプリ」で彼らはなぜ準決勝で敗退したのか? 俺は細かいことを指摘したが、それをカバーして余りあるウケだったと聞く。復活した2015年の第11回大会から数えて、決勝未経験者の中では最多となる4度目の敗者復活戦となる今回だが、今までとは違う。「アインシュタイン」に対する追い風は敗者復活戦出場コンビの中でナンバーワンだろう。
敗者復活戦からの決勝初出場。そして、優勝。「アインシュタイン」はブレイクした今年を「サンドウィッチマン」「トレンディエンジェル」が成し遂げた偉業で締めくくることができるのか。
次回は、残り2つのカテゴリー「『M-1』ラストイヤー組」「決勝進出経験組」を紹介します。
<取材・文/ユウキロック 撮影/荒熊流星>
1972年、大阪府生まれ。1992年、11期生としてNSC大阪校に入校。主な同期に「中川家」、ケンドーコバヤシ、たむらけんじ、陣内智則らがいる。NSC在学中にケンドーコバヤシと「松口VS小林」を結成。1995年に解散後、大上邦博と「ハリガネロック」を結成、「ABCお笑い新人グランプリ」など賞レースを席巻。その後も「第1回M-1グランプリ」準優勝、「第4回爆笑オンエアバトル チャンピオン大会」優勝などの実績を重ねるが、2014年にコンビを解散。著書『
芸人迷子』
今年もやります!! ラジオでM-1!!
12月22日(日)18時30分~22時30分
ABCラジオ/AM1008・FM93.3「ラジオでウラ実況!?M‐1グランプリ2019」
出演/ユウキロックほか
radikoからも聞けます!! 全国の皆さん!! 一緒にM-1を楽しみましょう!!