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ドキュメンタリーの名手・東海テレビが“テレビ局の闇”に自ら切り込んだ理由

カメラは局員の“恥部を晒した”のか

 カメラは主に3人を追う。入社16年目の福島智之アナウンサー、ベテランの澤村慎太朗記者、新人の渡邊雅之記者だ。彼らの「恥ずかしい部分」までしっかり収められている。本人たちがよく放送を了承したものだ。たとえば渡邊記者は、上司にミスを激しく叱責されている場面がしっかり映っている。 「逆に、何かまずいことがあるのでしょうか? 彼らは撮られていることを了承していますし、テレビマンとしてプロですから、そこはわかっている。今回に限らずですが、そもそも取材対象にどの撮影素材をどう使うかを、前もって報告することはありません。渡邊君はアイドルオタの一面も撮られていますが、あれはTV版にはなく、映画版で使うことも、今もって知らないと思います」  福島アナは、’11年8月に起きた「セシウムさん」テロップ騒動以降、番組内で自分の“意見”を言うことに恐れをなしている姿が晒された。 「放送後、福島君は、『自分のこれからを考えるいい機会になった』と言ってくれました。番組内でコメント枠を短くしてほしいと言う彼にタイムキーパーが副調整室できついことを言いますが、福島君は彼女に『ああいうふうに僕のことを見てくれてたんですね、うれしかった』とお礼を言った。人がその映像をどういうふうに読み解くかは千差万別。本当にいろいろです。第三者が勝手に決めつけても、それは想像にすぎないんですね」  澤村記者は、古いタイプのジャーナリスト魂が、テレビの現場ではやや“浮いて”いる。熱い理想論が行動を伴っていないようにも見える。 「澤村記者は過去から現在に至るまで、ずっと『ジャーナリズムを実践したいけれども、実際は貫徹できていない』人なのだと思います。しかし、そこにこそ彼がドキュメンタリーに出る意義がある。彼の日常がどうあれ、彼の根っこには今のテレビに言いたいことがある。結果、カメラの前で『テレビの闇って、もっと深いんじゃないですか』という言葉が出てきた。その発言自体には彼なりの意味があるんです」
副調整室

カメラには3人のアナウンサーや記者の「恥ずかしい部分」も映っている/©東海テレビ放送

ドキュメンタリーで晒されるのは作り手のほう

 ニュース番組ですらスポンサーからの“お願い”で新商品紹介ネタを作らざるをえない現実、ジャーナリズムの本質を忘れ、ひたすら視聴率と独自ネタに執着せざるをえない番組作りの実態、視聴者の高齢化に伴う年配キャスターへの交代劇――。  作中で次々とあぶり出されるテレビの闇を目の当たりにすると、本作は「テレビはオワコン」「マスゴミ」を自虐的に主張しているようにも思える。しかし、阿武野氏は本作を「我がテレビへの裸のラヴレター」と言って憚(はばか)らない。 「まず、いいですか。オワコン、終わったコンテンツとか言いますけど、みんなが番組を“コンテンツ”って言い始めた段階で、私は何かが終わった気がしたんです。その言葉が出始めた頃、『番組は番組だ。商品扱いするな』とよく怒っていました。番組はコンテンツじゃない、作品なんです。  そのうえで、なぜ本作がラヴレターなのか。だって、取材対象に本当のことを言うのが優しさでしょう? このままにしておくとテレビは死んでしまうのに、耳ざわりのよい嘘でいいわけがない。それはどんなドキュメンタリーも同じ。『この人はいい人です』なんておためごかしをやってきたことは一度もありません。取材対象のよろしくないところは、きちんと垣間見えるように表現する。今回の取材対象者は自分たち。厳しいけれども、自分に刃を向けながら腹を切り開いて今のテレビの姿を描く。そうして再生の道筋を模索しようと。それが、“ラヴレター”の意味ですよ」  刃を向けるのは、取材対象ではなく自分、つまり作り手側ということか。確かに、ラストの衝撃的な“手の内明かし”は自刃にも等しい。「テレビ的現実を都合よく切り取っている」「頭の中の台本に従って僕らが割り当てられた」という澤村記者の言葉は、ナイフのように鋭い。 「本作の女性スタッフは制作途中このラストシーンを見て、『自分たちがこんなに悪者になる必要ないのに』って泣いたんですよ。作り手はこんなやり口で作ってるんですよ、ウヒャヒャヒャ……って悪魔の声を出してるように見えたんでしょう。ただ監督の圡方は、局の仲間を晒(さら)しておいて、自分だけその外で涼しい顔をしてるわけにはいかなかったんだと思います」
圡方宏史監督(右)

監督の圡方宏史氏(右)は、『ヤクザと憲法』などでも阿武野プロデューサーとタッグを組む/©東海テレビ放送

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