更新日:2023年05月17日 13:29
エンタメ

ドキュメンタリーの名手・東海テレビが“テレビ局の闇”に自ら切り込んだ理由

 ’18年9月にローカル放送され、テレビ業界に大きな衝撃をもたらしたドキュメンタリー番組『さよならテレビ』が、新たなシーンを追加して劇場版として公開中だ。
阿武野勝彦氏

東海テレビの阿武野勝彦プロデューサー

 製作は、戸塚ヨットスクール事件で稀代の悪役となった戸塚宏校長の今に密着した『平成ジレンマ』(’10年)、暴力団の暮らしを取材して“ヤクザの人権”という問題を浮き彫りにした『ヤクザと憲法』(’15年)など、物議を醸すドキュメンタリー番組を作り続けている東海テレビ。しかも今作のターゲットは“自分たち”、つまりテレビ局である。  局員たちの業務を追うことで、番組制作の実態と裏側、テレビ局が抱える“都合の悪い真実”が浮かび上がる衝撃的な内容。同業者の間では録画DVDが“密造酒のように”出回ったという代物だ。冒頭では、社内でカメラを回すことに抵抗する局員による「やめろっつってんだろ!」という怒号まで収められている。実に険悪、不穏だ。局内に反発がありながらも、彼らはなぜ撮影を敢行したのか。  これまでの東海テレビドキュメンタリーのほとんどでプロデューサーを務める、阿武野勝彦氏に話を聞いた。

始まりはたった5行の企画書から

「局内には、この内容をぜひ取材・放送したいと言うスタッフだけでなく、不快に思う者がいたのも事実です。でも、今までの題材で“取材する/しない”の議論を局内でしていたかと言ったら、してこなかった。今回はたまたま、取材する側の人間が取材対象者になっただけであって、議論の機会を特別に設ける必要はない。そこはいつもと同じでいい。作り手の思いを大事に、突っ切れるなら突っ切ろうということになりました」  あまりに意外性のある“結末”には度肝を抜かれるが、阿武野氏によれば、企画段階では完成形を想定していなかったそうだ。 「普通のドキュメンタリー番組だったら、丹念に企画書を作って、シノプシスまで書いて、企画段階である程度着地を予想するんでしょうね。でも本作の基になった『テレビの今』という企画書はたった5行程度。『テレビの中を撮りますよ』『いいんじゃないの?』って感じでスタートしました。  起こりうる問題を最初から想定していたら、こんなことできませんよ。そんなことより、『やりたいんすよ! テレビが一番アレなんすよ!』みたいな勢いではじまっている企画です。だから最初の狙いと完成形で何が違ったか? と聞かれても、そもそも最初に想定した形がないので、違いは“ゼロ”としか言いようがありません」
企画書「テレビの今」

始まりは「テレビの今」というたった5行の企画書からだった/©東海テレビ放送

次のページ right-delta
カメラは局員の“恥部を晒した”のか
1
2
3
4
おすすめ記事