更新日:2023年05月18日 16:38
スポーツ

女子バスケット選手・吉田亜沙美が引退後半年でコートに戻ってきた理由

リオでの充実感「次は東京」とはなれなかった

 しかし、大会後に東京でそれを超えるパフォーマンスができるかといえば「難しいと思ったし、『次は東京』っていう気分にはなれなかった」。その後も吉田はJX-ENEOSではプレーを続け、昨季も自身11度目のリーグ優勝を経験。ただ、リーグ優勝後も東京へは気持ちが向かずに、’19年3月25日に引退を発表した。  そこから一転して、現役復帰した理由は何か。 「やっぱり、勝負の世界で長く勝つか負けるかという生活をしてきて、それがなくなっちゃうと物足りなさを感じてしまって。もちろん、ずっと勝ち続けているチームにいて負けられないというプレッシャーから解放されて気持ちが楽になって、癒されている部分もありました。  ただ、東京五輪に関するニュースを見聞きしたりして、もし自分が現役で試合に出る出ないに関係なくベンチに座っていたらどんな光景が見えるのかなと想像したら、すごく興味が沸いてきて、それを叶えたいという思いが強くなってきたんです。それに、やめてから会う方々に『まだ、やれるよ』とか冗談半分に言われているのを、真に受けてしまった自分もいたりして(笑)。1度やめておいて、またやりますって簡単に言えないですし、そこはすごく悩みましたけど……」  吉田は当初、JX-ENEOSに戻るつもりはなかった。1度辞めた選手が、すでに次のシーズンに向けて始動しているなか、のこのこと戻って迷惑をかけるわけにはいかない。1人でワークアウトして調整するか、もしくは別のチームを探して東京五輪に向け調整するつもりでいた。ただ、筋を通す意味でも、長年過ごしたJX-ENEOSにまずその意向を告げたところ、チーム部長が「ウチでやればいい」と快く迎え入れてくれた。 「部長に話したのが確か8月27日で、もうバタバタでした。その時は、悩んでる暇もなかった。理解して受け入れてくれたチームには感謝しかないです。ただ、最初は私も戸惑ったし、周りの選手も『えっ?』って感じですぐには状況を把握できていなかったと思います(笑)」  復帰後の2019-2020シーズン、序盤はベンチが続いた。ただ、徐々に出場時間を増やし、11月にはマレーシアで開催された五輪プレ予選(日本はすでに開催国枠で出場権を手にしているが参加)で2年ぶりに代表に復帰。第3戦で日本は世界ランク2位の強豪オーストラリア(82-69)から勝利するなど、吉田も出場時間は限られたものの復活を印象づけるパフォーマンスをみせた。

「久々の試合で緊張したというか不安しかなかった」

「まだリーグでほとんど試合に出ていなかったのですが、トム(・ホーバス、女子日本代表ヘッドコーチ)に声をかけてもらったので、二つ返事で。体力面はまだ全然だし、久々の試合で初めて緊張したというか不安しかなかった。せっかく呼んでもらったのに、何もできなかったらどうしようっていう気持ちもあったし。  もちろん、チームとしてフルメンバーのオーストラリアに勝てたのは大きいし、日本のバスケの成長を示せたとは思います。ただ個人的にはまだ50%の出来。これまで主将として長く代表にいましたが、いまはトライアウトの身。いつ落とされるかわからない危機感を持っているし、とにかく東京五輪までに少なくとも昨季の自分を越えられるように必死でやるだけです」  バスケ以外のスポーツにはまったく興味がないという吉田にとって、かつて五輪は遠い存在だった。実業団でプレーするようになり日本代表に入っても、’08年北京、’12年ロンドンは予選で敗れ、3度目の挑戦となったリオでようやく予選を突破し、出場が叶った。 「最初に代表に入った頃は、韓国や中国の足元にも及ばない感じで、果たしてその2か国に勝てる日は来るんだろうか、そんな思いもありました。ただ、徐々に日本も力をつけてきてリオの前くらいから、ようやく五輪が視野に入ってきた」  初の五輪となったリオではアシスト王に輝くなど、吉田の魅力は何と言っても鋭いドライブからの精度の高いパスである。 「パスは得意なプレーだし、自分の武器だと思っています。味方の良さを引き出すようなパスは心がけているし、東京五輪でもプレーできればそこをみてほしい」
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目標は金メダル
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