更新日:2023年05月23日 16:54
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<純烈物語>“5人目のメンバー”と難病に冒された男が夢見ていた紅白の舞台<第31回>

5年生存率33%、10年が0%の難病に

「実は私、アンドレザがデビューした2017年に平滑筋肉腫という10万人に1人の珍しい悪性腫瘍の病気になりました。その病気というのが厄介で放射線治療、抗がん剤も効かなく、治療法もなく5年の生存率が33%、10年が0%です。2年前に手術をして腫瘍を取ったのですが、今年の2月に検査をしたところ小腸から肺に転移していることがわかり、6月に手術をして肺の1/3を切除しました」  2017年10月に宮本さんと出逢った以後、病気のことは一切口にしていなかった。楽し気なその姿からは想像できぬ深刻な事情を抱えていることを知らされた時は言葉が見つからず、LINEをどう返したらいいのか戸惑った。  6月の手術はNHKホールと前後する。2月のマッスルも含め、当然ながら酒井ら純烈のメンバーも知らされていない。10年後の生存率が0%と告げられた瞬間から、宮本さんは死と向かい合う人生を余儀なくされた。 「その時、新根室のメンバーに話して誓ったのが、これから何年続けられるかわからないけれど、新根室が有名になって東京で単独興行ができたら解散しようという目標でした。その時はまだアンドレザがブレイクする前で、東京で単独興行なんて夢のまた夢でした」  5月に新木場1stRINGという会場を押さえた時は、北海道の社会人プロレス団体が東京へ進出することを素直に喜べた。だが、その裏ではこの大会で解散することが決まっていたのだ。 「無理しない、ケガしない、明日も仕事!」を決めゼリフに、あくまでもプロではなくアマチュア団体として活動し、北海道内のお祭りやイベントに呼ばれ無料で地元の皆さんを楽しませていた新根室。それがアンドレザの一大ブレイクにより、またたく間に全国区の人気となった。  まさに小説を超えた奇跡だった。先のことを思うと苦しくて笑顔を忘れてしまいがちな宮本さんにとって、パンダの前で大人も子どもも一緒になって笑顔を浮かべているところを見るのが精神的な特効薬となったのは言うまでもない。一人ひとりがアンドレザの「幸運を呼ぶヘッドバット」を受けるたびに、その隣でしあわせを祈願していた。  9・14根室三吉神社大会で、宮本さんは自身の病状と年内の新根室解散を発表。笑顔でいっぱいだった会場が、静まり返った。

新根室プロレス最終興行を「無理しない、ケガしない、明日も仕事!」で締めたサムソン宮本(中央)

 それから1ヵ月後、台風19号の影響で開催が危ぶまれていた新木場大会も、来場者の足を考慮し開始時間を遅らせることで無事決行。団体初となる有料興行は前売りの時点で完売状態となるほどの人気ぶりだった。  初の新根室東京大会、そしてラスト興行――そのメインは「仲間たち全員と対戦して終わりたい」との思いから、サムソン宮本シングル13番勝負が組まれた(もっとメンバーはいるのだが、台風の影響で向かえなかった)。  アマチュアプロレスとはいえ、肺を1/3切除した状態だけに運動するだけですぐ息苦しくなる。それでもサムソンは13人を相手に闘い抜いた。そんな宮本さんの前に現れたのは、5年前に別居した明美夫人だった。 「あなた、お疲れ様。カッコよかったよ。また一緒に暮らそう」  じつは数年前にも同じように多人数を相手に連戦をおこなったあと、その姿を見せた上で復縁を申し入れながら、夫人は黙って背を向けリングを降りたことがあった。でも今回は、試合だけでなく病魔とも闘う旦那の姿に心を揺さぶられたのだろう。  プロもアマも素人も関係ない。抱き合う2人の姿に、みな泣いていた。  こうして新根室はラスト興行を成功させた。純烈が2度目の紅白に出場した夜、後楽園ホールでは「年越しプロレス」が開催され、CS放送プロレス格闘技専門チャンネル・FIGHTING TV SAMURAIが制定し、視聴者投票で決められる「日本インディー大賞」のベスト興行賞4位に、数あるプロの団体を押しのけてこの新木場大会が選ばれた(マッスル両国も3位)。  それにしても、なぜ10・13ではなく「年内をもって解散」としたのか。その後にアンドレザが出場するイベントもあったものの、何よりも12月31日にこだわったのは宮本さんが“最後の夢”を想定していたからだ。
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サムソン宮本の体調を気遣っていた酒井一圭
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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