更新日:2023年05月23日 16:54
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<純烈物語>“5人目のメンバー”と難病に冒された男が夢見ていた紅白の舞台<第31回>

サムソン宮本の体調を気遣っていた酒井一圭

 万が一……いや、億が一にアンドレザが紅白に出られたら、それが新根室としての最後の活動となる。もっとも、そのことを自分から頼むなどできない。 「わかりました、宮本さん。紅白出場という夢がかなうことでそれが生きるための力になるのであれば、私から一圭さんにその思いを伝えます」  本来ならば、こんな越権行為は絶対にしてはならない。国民的イベントである紅白に私情をはさむなど、許されぬものであるのは重々承知の上だった。  それでも宮本さんの現状と思いを、リーダーに知ってほしかった。これがまるで関係ない方面からの話であればそもそも成り立たぬが、アンドレザには元メンバーというとっかかりがある。 「サムソン、その後どうなの? 体の方は大丈夫なんですか?」  2度目の紅白出場が決まったあとの取材の席で、酒井からそのように切り出してきた。カミングアウトした時点でニュースを見ており、気になっていたのだ。話すならこのタイミングしかないと思った。  宮本さんの現状と、紅白への思いをそのまま伝えた。その間、酒井はずっと声を押し殺し、一切言葉をはさまず聞いていた。 「……うん、話はよくわかりました。その上で、現実問題として演出はNHKがやります。そこにこちらの意向を出して聞いてもらうまでは可能です。ただ、じっさいに紅白へとなると、可能性としては3%ぐらいだと思う。  というのは、今回は4人で頑張ってきたことが評価されての2度目の出場でありながら、そこにパンダとはいえ5人目が入ってやるのは絶対に厳しい。それでも健さんから聞いてお引き受けしたので、メンバーやスタッフにも聞いた上でかけあってみます」  極々個人的な願望に対しここまでちゃんと考えた上で、いたずらに希望を持たせるような言い回しではなくハッキリと「3%」と言ってくれるとは……。言っていることはすべて納得だし、大晦日の時点でわかるのだが、DA PUMPとの共演に他のものを差し込むわけにはいかなかった。  その時、私が抱いた思いは宮本さんも同じだった。LINEで報告すると「一圭さんの誠実さが伝わってきました。本当にありがたいです」と喜んでいた。おそらく紅白に出られずとも、それだけで満足できたのだろう。 「純烈は名前を聞いていたぐらいだったんですけど、両国の時もNHKホールでも何もここまでというぐらい腰の低い方々で。思っていた以上にデカかったから『背は高いのに腰は低いのかー』って思いました。そして物事に対する真剣さがすごく伝わってくる皆さんで、だからアンドレザともどう絡めばお客さんに喜んでもらえるかをすごく考えてやられていたんだと思います。  そんな純烈だから、紅白に出たいと思ってしまったんでしょうね。何もかかわりがなかったら、そんな大それたことを空想さえしなかった。アンドレザも、一瞬でも純烈のメンバーになれたことは嫁のティンティンや息子のラジャ・パンダにも自慢できたし、ワイドショーを見た地元のおばちゃんたちからもチヤホヤされて嬉しかったようです」
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酒井の特別なはからいに恩返し
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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