更新日:2023年05月23日 17:07
エンタメ

<純烈物語>酒井が「1・4新日本プロレス」の解説席から見た飯伏幸太はあのときと同じ目をしていた<第32回>

オカダさんは氷川きよしでした

 そんな中で迎えたメイン。自分が呼ばれている意味を咀しゃくした酒井は、飯伏の関係性を前提に話そうとした。通常、解説は中立を原則とするが、ここで求められるのは紅白出場歌手の中に生じた生身の気持ち。  何度となく「飯伏君!」と叫んでいた。試合中、目と目が合った。北沢タウンホールのリング上で対峙した時と同じような何か面白いこと、見る者を驚かせることをたくらんでいる顔だった。  次の瞬間、自分へ向かってくるかのように飯伏が頭上から飛んできた。コーナーポスト上から場外へムーンサルト・アタックをかます難易度の高い空中殺法を出したのだ。  東京ドーム2DAYSで見られた場外へのダイブ技は、ほとんどが放送席とは反対側となるセンター花道の方向だった。そこはリングサイドが広く、奥のスペースもあるため成功率が高い。  飯伏が飛んだ方向はリングと場外鉄サクの間が1.5mほど。つまりフェンスに激突したり、飛びすぎるとそれこそ放送席へ直撃したりするリスクをともなう。  ところが常人離れしたバランス感覚と運動神経の持ち主である飯伏は、なんのためらいもなく酒井の目の前に飛んできた。東京ドームという巨大空間で描かれた、パーソナルな絵心だったのかもしれない。

飯伏の三角跳び式ケブラーダを至近距離から体感した酒井(リングサイド付近に写るテレビカメラのすぐ右後ろ姿が酒井)

「あの技はわざと僕の方向でやったんじゃないかって思っています。闘いながら、思い出を作ってくれるって言ったらいいのかな。向こうも僕が放送席にいることで何かを感じただろうしね。これはもう、解説という立場であっても飯伏君を応援せざるを得ない。  そこはオカダさんの偉大さですよ。僕が中立でなくなってもオカダさんは絶対的なんだから。飯伏君、こんなの勝てんの? でも、あわよくば……って思ったぐらいで、あわよくばという言葉が出ちゃうぐらいにオカダさんは氷川きよしでした」  酒井も夢見た飯伏のIWGPヘビー級奪取シーンは、現実とはならなかった。39分16秒という死闘の末、オカダの必殺技・レインメーカーの連打に沈んだ。  その瞬間の気持ちは、聞かなかった。それは、酒井自身の中だけに残ったものとして世に出ず、永遠に刻まれた方がいいと思えたからだ。  2020年一発目の仕事が純烈ではなくプロレスだったことで、酒井は「好きという同じ思いを持った人たちと仕事ができるしあわせ」を改めて味わえたという。それは、3度目の紅白を実現させるために必要な経験と言えるのかもしれない――。 ※この項終わり。次回からは純烈丸に同乗する人々が語る物語がスタートします。お楽しみに!
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。
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