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<純烈物語>リーダー酒井のプロデュース力に「踏み込める次元ではない」。レコード会社マネジャーが舌を巻いた理由<第34回>

10代~20代の若い世代の客への訴求を模索も……

 紅白歌合戦初出場を果たす2年前あたりから、もしかするといけるかもしれないといった空気が世間には生じていた。そんな中、レコード会社の人間として業界を見てきた新宮の感触は、紅白出場は10~15%ほどの確率というのが正直なところだった。  まだ、圧倒的に集客能力が足りなかった。そこで新宮は「目の前にいるお客さんはおばちゃんたちが中心だから、ファン層を広げるために若い世代を開拓しましょう」と提案する。学園祭への出演を入れたり、10代~20代に波及しそうな材料を提示したりと、具体案も並べた。ところが、酒井は「絶対にやらない!」と言い切った。 「今年紅白出られると思う? 俺は5%もないと思う。でも俺らはこれからも、目の前のお客さんを喜ばせることだけに集中する。そのやり方で、紅白までいってみせる」  それを聞いた時、自分なんかよりも確実に現実が見えていて、まっすぐな信念があるんだなと新宮は痛感する。そして「わかりました。あなたがこうしたいということがあったら自分が理解できなくてもそのようにするので、なんでも指示してください」と約束した。  酒井のプロデュース能力と、演者としての覚悟の強さは衝撃的だった。本気でやろうとしている人は、こういう感じなのだと。  演歌・歌謡曲の世界は、師匠にあたる存在が必ず付随してくる。作詞・作曲を○○先生にお願いし、レッスンを受けてデビューし、その唄の主人公になりきって届かせるように歌う。  当然、師匠には気を遣わなければならないし、レコード会社のプロデューサーやディレクターも同様の存在となり、与えられたものを完ぺきにこなす方向で活動を続けるようになっていく。そうした中で、純烈は自分たちで試行錯誤しながらここまで這い上がってきた。そこに決定的な違いがあった。  活動や方向性に関し、なぜこれをやっているかの根拠をちゃんと言える。つまりはセルフプロデュース能力があって、それを実践できている方が稀有な存在なのだ。  そんなグループは見たことがなかったので、新宮は逆立ちしてもかなわないとシャッポを脱いだ。その日を境に「こうしてください」「こうするべきです」というようなことを言わなくなった。業界の人間として情報提供はできても、そこまで踏み込める次元ではないと悟ったからだ。  健康センターを中心に回っている頃も最初は現場に足を運んでいなかったが、次第にマスコミ取材のカメラが入るようになり、その対応として機会が増えていった。ライブにおいてファンのリアクションをダイレクトに感じることで、その時点での空気感や機運のようなものをつかんでいく。
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