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深夜にこのドラマを見る“痛い思い出プレイ”がクセになる/ドラマ『死にたい夜にかぎって』第5話

 バズりからがっかりへ急速に転落してしまった『100日後に死ぬワニ』騒動について、今さらここで書くつもりはない。ただ、みんなが応援していたときの共通の思いは、100日後にこのワニは死ぬんだとあらかじめわかっていたことによる強烈な切なさだったであろう。それと同じなのが深夜ドラマ『死にたい夜にかぎって』(MBS毎週日曜深夜24時50分~、TBS毎週火曜深夜25時28分~)。主人公・浩史(賀来賢人)とアスカ(山本舞香)は「6年後に別れる恋人たち」である。ふたりは2011年、震災のあった年に別れる。そこからドラマは始まり、6年前の出会いの日にさかのぼり、徐々に2011年に近づいていく。第5話は2010年。そこから運命の2011年3月11日まで進む。嗚呼!

浩史とアスカが音楽をめぐって大喧嘩する第5話。(C)2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS (C)爪切男/扶桑社

 第4話のレビューでは、『死にたい夜にかぎって』(以下『死に夜』)は男女どちらかの一方的な視点ではなく、両者の言い分がわかるところがいいと書いたが、第5話はむしろ浩史の想いのみ全開であった。もしかしたら「両方わかるぅ~」というよりも、どちらか一方的な想いのほうが極端で面白いのかもしれない。つまり、第5話はかなり面白かった。 “「相手の音楽を理解するっていうのは、その人間を理解するってことじゃないか」。マイルス・デイヴィスのこの言葉が本当だとするならば、私はアスカのことを全く理解していないまま、この五年間を一緒に過ごしてきたことになってしまう。”(原作『死にたい夜にかぎって』より)  同棲して5年、最初の運命のふたり♡的な物語はもはやなく、だらだらと同棲生活が続いている浩史とアスカ。ミュージシャン志望のアスカの曲はどれも出来がいいとは言えず、悶々となる浩史。曲を聴いたラッパー編集者・黒田(戸塚純貴)のラップ混じりの辛辣な意見を受け、浩史はついに引導を渡すことにする。  かなり爪切男の原作小説に忠実なドラマだが、唯一、浩史の勤務先であるメルマガ編集部の様子をオリジナルで描いていて、そこで浩史がアスカには言えないことを職場ではこんなふうに語り合ってしまうというドラマらしい多角的な視点になる。  それにしても、黒田役の戸塚純貴の真実を突き刺してくるような濁りのない大きな瞳が堪らない。彼も出演しているショートストーリー(本編から溢れた部分などを描いたごくごく短いドラマ)まで見てしまった。  アスカの創作活動を無為なものと考える浩史は、自分だって小説家になる夢を叶えられていないことをわかってはいる。でもそこに向き合うことをせずに、アスカを責めることに逃げているのだと思う。痛い、痛い、こういう逃避は他人事に思えない。若いとき、付き合っている者同士、それぞれ創作活動をしていてお互い褒め合っちゃう、あの痛さ。一度通ってきた道だからよくわかる。深夜にこのドラマを見る“痛い思い出プレイ”がクセになる。傷つけあったあと、いつもの吉野家とは違うちょっと遠い吉野家に行く。でも吉野家は吉野家。なんともしみったれている出来事が、賀来賢人のモノローグで何やら素敵なものに聞こえてくる。男ってどうしてこんなにロマンチストなのー!?  しかし、『死に夜』はこのロマンチックに高められたセンチメンタリズムを笑いに転じて回避しようとする。第5話では、浩史が風俗嬢を「炎の風俗嬢」にするエピソードが笑える。アスカの浮気に対する発散ということにして風俗にも通い続ける浩史。詳細は、未見の方のためのお楽しみとするが、あまりにもバカバカしくて、それが最高なのである。最終的に風俗嬢を評価するときに出てくるワード「天狗」もきっとシモネタなんだろうなあ。こんな男のアホな妄想に付き合う風俗嬢って大変なお仕事だなと思ったので、やっぱりこのドラマは女性側にも立っていると言えるのかもしれない。

炎の風俗嬢、現る。(C)2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS (C)爪切男/扶桑社

 ちなみに原作では、浩史とアスカが出かける先は吉野家ではない。さらに、その店に行く意味がドラマとは違っている。浩史の店へのこだわりも含蓄がある。  そして、ついに運命の最終回。 「6年後に別れる恋人たち」を描いた『死に夜』は、感動ががっかりには絶対ならないと思う。だってもう特別編『あとがき』配信が公表されちゃっているし。いやむしろ、『死に夜』劇場版を制作したらいいのに。

爪切男がこれまでの女性との出会いや別れを綴った実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社文庫)

文/木俣 冬フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など
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MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』詳細情報

<放送・配信情報>
MBS毎週日曜深夜24:50~ TBS毎週火曜深夜25:28~
TSUTAYAプレミアム、TVer、MBS動画イズムでも配信中
TSUTAYA特設ページ:http://tsutaya.jp/syk_p/

主演:賀来賢人
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也(ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』)
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント MBS

【番組公式SNS】
・ドラマ公式Twitter:@shinitai_yoruni
・ドラマ公式Instagram:shinitai_yoruni

【ドラマ公式サイト】
https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/

©2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS ©爪切男/扶桑社

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単行本・文庫本:『死にたい夜にかぎって』詳細情報


作者:爪切男
単行本・文庫本好評発売中
発行元:株式会社 扶桑社

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・作者プロフィール:爪切男 (つめきりお)
’79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』 が人気。’14年、『夫のちんぽが入らない』 の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』が話題となる。’15年に頒布したブログ本も、文学フリマで行列を生んだ。本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。週刊SPA!!では、労働エッセイ『働きアリに花束を』が好評連載中。

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文庫本:『死にたい夜にかぎって』

賀来賢人主演、連続テレビドラマ化決定!

単行本:『死にたい夜にかぎって』

単行本も是非チェックいただきたい!

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