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あなたは「虫の裏側に似た笑顔」を想像できますか?/ドラマ『死にたい夜にかぎって』第1話

虫の裏側に似た笑顔。 これって想像できますか? こんなユニークな表現が、爪切男のベストセラー私小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にはある。そして、この実話を実写化した同名深夜ドラマ(MBS毎週日曜深夜24時50分~、TBS毎週火曜深夜25時28分~)は、この謎の笑顔をみごとに再現して見せたのである。

第1話は浩史とアスカの出会いが描かれる。(C)2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS (C)爪切男/扶桑社

 『死にたい夜にかぎって』は浩史と“戦友”アスカとのろくでもなくも、かけがえのない6年を私小説の風情あるタッチで描いたラブストーリー。小説を書きながら、会社に所属するライターとして糊口をしのいでいる浩史のやるせない生活と恋は、夜中にひっそり見るにふさわしい。ドラマは1話30分(全6話+特別編1話配信)なのでさくっと見られる。 主人公の浩史は多感な少年時代、「君の笑った笑顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」と同じクラスの可愛い女子から言われたことのある人物。幼い頃から母は不在で、父に育てられ、成人した今は東京で小説家を目指しながらアパートにひとり暮らしをしていた。2005年、インターネットのチャット(なつかしい)で知り合ったアスカと出会い恋に落ち、その後、6年間、震災のあった年まで一緒に暮らす。 問題の「虫の裏側に似た笑顔」を演じる俳優は賀来賢人。めちゃめちゃイケメンという感じでもないが(すみません)、チャーミングな俳優である。なにより、福田雄一作品で、自由自在におもしろ演技をして、近年注目されるようになった。とりわけ『今日から俺は‼』がブレイクポイント。今の世の中、若い男性俳優はイケメン度で勝負を求められるなか、あえてイケメンから離れるアプローチでみごと飛び抜けた賀来賢人だからこそ、「虫の裏側に似た笑顔」を、わかる~という領域に持ち込めた。 ああ、なるほど。虫の裏側だ。カナブンの腹だ。 2011年の浩史がある瞬間、笑って見せたとき、そんなふうに見えた。諧謔的な表情が堪らない。それだけで満足した第1話。レビュー終わり。 ……嘘です。もうちょっと続けます。 第1話ではアスカとの出会いが描かれる。チャットでいい感じだったアスカと実際に会ってみたら、即意気投合するも、ミュージシャン志望のアスカは男たちに唾を売って暮らしていた。浩史は一緒に暮らして生活費を自分が出すことにして、そのバイトを辞めてもらおうとするが……。 小説ファンも納得の、原作をリスペクトしたドラマである。小説を原作にした映画やドラマは小説の細かい描写部分がちっとも再現されず、ストーリーだけ追っているものが少なくない。小説側からしたら原作を売るためのプロモーション映像と割り切っているのかもしれないが、原作ファンとしてはモヤモヤする。見なければいいと言われても簡単には割り切れない。それに比べて『死にたい夜にかぎって』は小説の巧いところを丁寧に掬って構成した、善良な原作ものである。 ただただ好きな女の子と対等でいたいがための男子の、ツッコミどころ満載なやるせない行動を、釣り堀の魚の口元と重ねて描く原作の読後感をドラマはいい感じのロケで再現する。TBSのプライムタイムのヒット作『リバース』や『わたし、定時で帰ります。』などを手掛けているスタッフが演出を手掛けている。 原作小説の担当編集者に聞いたら「原作はエモさというよりも、恋に生きる男の痛さだったり、上品には程遠い下品さ、それらが持つ温かみと笑いを重視しています」とのことだが、原作を知らない人にも文系男子とメンヘラ女子の痛(いた)エモいラブストーリーとして楽しめるし、原作ファンなら、原作とドラマの相違点を探すのも楽しいと思う。 『フェリーニの道』と『激烈バカ』や、初デートの叙々苑、浩史の着ているTシャツ、アスカの歌う楽曲などなど……登場するワードのどこが違ってどこが同じか比べてみるとけっこう楽しい。 可愛いけど、唾を売るというエグい商売をしているアスカを演じているのは、山本舞香。 十代の浩史に「虫の裏側」発言した女子役は玉城ティナ。玉城ティナに虐められて、山本舞香と一緒に暮らせたら最高だなあ。

爪切男がこれまでの女性との出会いや別れを綴った実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社文庫)

文/木俣 冬フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など
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MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』詳細情報

<放送・配信情報>
MBS毎週日曜深夜24:50~ TBS毎週火曜深夜25:28~
TSUTAYAプレミアム、TVer、MBS動画イズムでも配信中
TSUTAYA特設ページ:http://tsutaya.jp/syk_p/

主演:賀来賢人
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也(ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』)
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント MBS

【番組公式SNS】
・ドラマ公式Twitter:@shinitai_yoruni
・ドラマ公式Instagram:shinitai_yoruni

【ドラマ公式サイト】
https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/

©2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS ©爪切男/扶桑社

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単行本・文庫本:『死にたい夜にかぎって』詳細情報


作者:爪切男
単行本・文庫本好評発売中
発行元:株式会社 扶桑社

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・作者プロフィール:爪切男 (つめきりお)
’79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』 が人気。’14年、『夫のちんぽが入らない』 の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』が話題となる。’15年に頒布したブログ本も、文学フリマで行列を生んだ。本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。週刊SPA!!では、労働エッセイ『働きアリに花束を』が好評連載中。

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文庫本:『死にたい夜にかぎって』

賀来賢人主演、連続テレビドラマ化決定!

単行本:『死にたい夜にかぎって』

単行本も是非チェックいただきたい!

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