「我慢の限界」を「気持ちの切り替え」で乗り越える/ドラマ『死にたい夜にかぎって』第3話
はたからは痛く見える恋愛でもキュンはある。メンヘラの彼女アスカ(山本舞香)と付き合っている浩史(賀来賢人)の6年にわたる恋を描く、爪切男の人気小説をドラマ化した『死にたい夜にかぎって』(MBS毎週日曜深夜24時50分~、TBS毎週火曜深夜25時28分~)。
倦怠期編と言っていいかもしれない第3話は、“神回”とSNSを沸かせた。
回を追うごとに盛り上がってきている『死にたい夜にかぎって』の第3話の神ポイントを振り返る。
2009年。アスカという恋人がいるにもかかわらず、編集部員でラッパーの岡田さん(小西桜子)に好かれてしまう浩史。浩史はアスカ一筋だが、当の彼女はどうやらほかで遊んでいるらしい。
「女は必ず裏切る」
「俺はとっくに理解しているのだ」
と、ここで一度、浩史の歴史を振り返っておこう。
2005年 浩史とアスカ、出会う。
2009年 浩史とアスカに危機が。←イマココ
2011年 浩史とアスカ、別れる。
……振り返るほどなかった気もするが、ふたりが別れるまで、あと2年。未来から過去に遡る構成なので、ふたりにやがて別れが待っている(第1話で別れが描かれた)ことを知ったうえでドラマを見ることになり、余計に切なさが募る。こういうのを神構成という。
アスカは申し分ないかわいい子で、浩史と趣味も合っているが、唾は売らないと言いつつこっそり売っていたり、浩史に働かせて勝手気ままにやっていたりして、浩史の心をざわつかせる。
あるとき、アスカは突如、「私ね、あゆになる」と言ってダイエットを開始。ダンスで体を絞ろうと、家のなかでびょんびょん飛び跳ねていて、浩史は安眠できずイライラが募っていく。神ダンス。
こんな状態のとき、うまい具合に仕事場に「彼女と別れたら彼女にしてください」と言う可愛い子がいる浩史、なかなか運がいい。演じる賀来賢人は、目ヂカラをあつめな前髪にメガネで抑制、無精髭でしゅっとした輪郭も曖昧にして冴えない文系男子を演じているが、隠しきれないイケメンパワーが漏れ出してしまうのであろうか。神演技。
だが、浩史の前に現れるのは、ちょっと変な子ばかり。アスカも、岡田さんもどこか危うさが漂う。
浩史、変な子ホイホイか。
初恋の吉野さん(中村里帆)はヤンキーで、再会したとき、浩史の自転車の鍵を壊して盗もうとしていた、そんな回想がはさまれる。
この回の神セリフ「スパナの入射角えぐ」。
自分の自転車であることを知らんふりして、鍵を勘で開けてみる演技をする浩史。彼の鍵は「9465」(苦しむ六つ子)だった。そういえば、第1話のインターネットチャットのハンドルネームにこのナンバーがついていた。神伏線。
「苦しむ六つ子」って「胎児よ、胎児よ、なぜ踊る」みたいだ。あと、「46」を逆さにしたら「虫」である。
変な子ホイホイに寄ってきた岡田さんは、浩史が別れるのを2年も待っているというなかなか殊勝な人物だと思いきや、その間、たくさんの男と関係を持ち「やりまんラッパー」と呼ばれていた。
やはり、アスカと岡田さん、似たところがあるような気がしないでもない。人って同じ過ちを繰り返しがちですよねえ……。
浩史は気遣いの人で、意外と健気な岡田さんの誕生日にプレゼントを贈る。このプレゼントのセレクトと、それに対する男と女の考え方の違いがおもしろい。『死に夜』(略し方はこれでいいのだろうか)はこういうディテールが絶妙だ。神原作。
浩史は、アスカの奇矯に疲れて、別れようと思い、岡田さんの出るライブに出かける……。
ライブでは、社長がラップをやっていた。なんで、ラッパーばかりの編集部なのかと思ったら、社長役のMummy-Dがホンモノのラッパーなのであった。ラッパーの編集部員役の俳優たち、黒田役の戸塚純貴、CRAZY舌役の櫻井健人、レブロン役の今井隆文は、本当は全然ラッパーではない。社長のラップがかっこいい。神ラップ。
ライブは浩史の気持ちをさらに逆なでし、うまくいきそうでいかない浩史は、ついにアスカのダンスにぶちキレる。
「今の俺はドの音がイヤなんだよ」
このくだり、最高。神シーン。
ずっと我慢していたことがある日ぷつっと切れてしまうことってある。
だがここで重要なのは我慢の限界ではなく、そのあとの浩史の気持ちの切り替えなのであった。ここはまさに神回。いやあ、本当に浩史、いい人だなあ。
最近、ドラマや映画を見る人は、鬱々としたものは見たくないという。現実がぱっとしないのに、フィクションの世界まで日常のリアルなど見たくないのだとか。そういう意味で『死に夜』は、一瞬ギスっとなっても、深く傷をえぐっていくことはない(今のところ)。
岡田さんだって2年間、浩史を待つという、主人のお預けをちゃんと待つ忠犬さを発揮し、
いきなりアスカから奪うドロドロド修羅展開にならないのだから。そういう意味では誰もが安心して見ることができると思う。
ちなみに、岡田さん役の小西桜子。公開中の映画『初恋』(三池崇史監督)でヒロインをやっている。借金のカタに薬漬けにされて体を売っている少女で、主人公のボクサー(窪田正孝)に助けられてともに逃亡する。前田敦子にちょっと似ていて、絶叫芝居もいける。話題のマンガの実写化ドラマ&映画『映像研に手を出すな!』にも出演予定。今、注目の若手俳優である。
文/木俣 冬フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など
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MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』詳細情報
<放送・配信情報>
MBS毎週日曜深夜24:50~ TBS毎週火曜深夜25:28~
TSUTAYAプレミアム、TVer、MBS動画イズムでも配信中
TSUTAYA特設ページ:http://tsutaya.jp/syk_p/
主演:賀来賢人
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也(ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』)
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント MBS
【番組公式SNS】
・ドラマ公式Twitter:@shinitai_yoruni
・ドラマ公式Instagram:shinitai_yoruni
【ドラマ公式サイト】
https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/
©2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS ©爪切男/扶桑社
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作者:爪切男
単行本・文庫本好評発売中
発行元:株式会社 扶桑社
・作者プロフィール:爪切男 (つめきりお)
’79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』 が人気。’14年、『夫のちんぽが入らない』 の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』が話題となる。’15年に頒布したブログ本も、文学フリマで行列を生んだ。本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。週刊SPA!!では、労働エッセイ『働きアリに花束を』が好評連載中。
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MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』詳細情報
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MBS毎週日曜深夜24:50~ TBS毎週火曜深夜25:28~
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主演:賀来賢人
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也(ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』)
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント MBS
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【ドラマ公式サイト】
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©2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS ©爪切男/扶桑社
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単行本・文庫本:『死にたい夜にかぎって』詳細情報
作者:爪切男
単行本・文庫本好評発売中
発行元:株式会社 扶桑社
・作者プロフィール:爪切男 (つめきりお)
’79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』 が人気。’14年、『夫のちんぽが入らない』 の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』が話題となる。’15年に頒布したブログ本も、文学フリマで行列を生んだ。本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。週刊SPA!!では、労働エッセイ『働きアリに花束を』が好評連載中。
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文庫本:『死にたい夜にかぎって』 賀来賢人主演、連続テレビドラマ化決定! |
単行本:『死にたい夜にかぎって』 単行本も是非チェックいただきたい! |
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