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都会の片隅で弱い者たちが肩寄せあって生きている/ドラマ『死にたい夜にかぎって』第2話

爪切男のベストセラー小説の実写ドラマ化『死にたい夜にかぎって』(MBS毎週日曜深夜24時50分~、TBS毎週火曜深夜25時28分~)がエモい。 幼少時にクラスの可愛い女の子から「君の笑った笑顔、虫の裏側に似てるよね。カナブンとかの裏側みたい」と言われた過去がある、冴えない小説家志望の男・小野浩史(賀来賢人)と恋人アスカ(山本舞香)の6年間に渡る、決してかっこよくはなく、むしろみっともなく愚かしいほどの、でも尊い日々を描く第2話では浩史の受難が始まる。第1話開始17分で相思相愛になってすぐ同棲開始したふたりだが、このままラブラブな日々が続くわけがない。アスカに唾を売る以外の新たな問題点が浮上する。

減薬を始めたアスカが浩史の首を絞めるようになる第2話。(C)2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS (C)爪切男/扶桑社

 生活費を持つとはりきって、とある編集社のライター見習いとなった浩史。そうでもしないと、大好きなアスカが唾を売る仕事をこっそり続けてしまうから。それは浩史にとって耐え難いことで、ついつい風俗に行ってしまうから。 ライター見習いの手取りは26万円。まあまあだ。 よく笑ってよく食べるアスカを愛でる浩史。 「お前は死なないでくれよ」 「俺より健康で長生きしてほしい」 と「関白宣言」みたいなこと(俺より先に死んではいけない)を思っていたら、あるとき、ふいに電池が切れたようにアスカの元気がなくなってしまった。 鬱、不安障害、睡眠障害で自宅療養となるアスカ。 それまでラブラブだったのに、「◯◯が長い」と文句を言い出す(◯◯はドラマでご確認ください)。実は我慢していたことを吐き出すあるある。いきなり強烈なことから持ち出してきた。第2話はこのような、恋愛あるあるが絶妙な下ネタをまぶした会話で描かれる。 アスカ「自立してない女きらいでしょ」 浩史「勃つとか勃たないとか自分のちんちん以外で気にしたことない」 うん、なるほど。 どんなにおかしな言動をしても、穏やかに応対してくれる浩史を、アスカは「優しい」と思う。 「優しくないよ適当なだけだから」と浩史。 おお、常套句はど真ん中過ぎると、逆に染みる。そして、男がこんなに優しいのは恋愛初期だからに違いないと余計なお世話なことを思いながら観ていると、浩史がカミングアウト。 「俺も心の病気なのよ」 そして、場面は1988年夏へ――。 浩史には母がいなくて、父(光石研)に育てられ、その父がかなり厳しかった。今ならモラハラで問題視されそうな感じで、浩史が閉所恐怖症になった理由が酷い。 クラスメイトには「虫の裏側」と言われるわ、父からは虐待されるわで、浩史もけっこう辛い過去を背負っている。 そんなこんなで一緒に心療内科通い。同じ薬を飲んで、同じ診察券を持つ幸せ。この描写に唸る。世界エモシーンアワード1位を捧げたい。 笑える要素もたくさんあるけれど、都会の片隅で弱い者たちが肩寄せあって生きてる様子を優しく見つめるような場面である。「屋根裏の二匹のねずみ」という歌を思い出した。1983年にかしぶち哲郎feat.矢野顕子として出したアルバムに入っている。矢野顕子ってあんなに声に特徴があるにもかかわらず、忌野清志郎とのデュエットをはじめとして、デュエットソングだと最高に寄り添いボイスなんだよなあと思う。 ……話が逸れたが、アスカが自宅療養している間に、浩史は編集長になって、なぜかラッパーばかりの編集部員を束ねることになる。給料も上がったので、引っ越しする。わりとトントン拍子である。 がんばっている浩史のためにも、アスカは断薬を決意。 が、しかし、禁断症状に苦しんで、浩史の首を毎晩絞めるようになる。ここからが修羅モード。 アスカという名前から、『エヴァンゲリオン』を思い出してしまう人もいるのではないだろうか。筆者はそうだ。エヴァのアスカもシンジくんもメンヘラちゃんなところがあった。でも首を絞めるのはシンジくんのほうだけど(劇場版『まごころを、君に』)。 浩史とアスカのメンヘラカップルは、この危機をどう乗り越えるか。浩史の考え出したアイデア、そしてその顛末は……。浩史よ、どこまでいいヤツなんだ。 このいい人キャラが仇になり、一波乱起きそうになるところまでが第2話。 ここまでだいぶネタバレしてしまった気もしないではないが、ここからさらにネタバレします。 新編集部員の岡田さん(小西桜子)の危機を救った浩史は、彼女に熱っぽく見つめられる。でも、彼女いるけど「レスだから」なんて言うのがいけないと思う。アピールとも解釈されかねない。 岡田さん、紅い髪して、ラッパーだけど、やっぱり可愛い。 浩史、意外とモテる。原作は爪切男の実体験をもとにして書かれたそうだが、爪切男もいい思いをたくさんしてきたってことなのだろうか。 岡田さんの参戦により、3話はさらなる盛り上がりを見せそうだ。

爪切男がこれまでの女性との出会いや別れを綴った実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社文庫)

文/木俣 冬
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など
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MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』詳細情報

<放送・配信情報>
MBS毎週日曜深夜24:50~ TBS毎週火曜深夜25:28~
TSUTAYAプレミアム、TVer、MBS動画イズムでも配信中
TSUTAYA特設ページ:http://tsutaya.jp/syk_p/

主演:賀来賢人
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也(ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』)
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント MBS

【番組公式SNS】
・ドラマ公式Twitter:@shinitai_yoruni
・ドラマ公式Instagram:shinitai_yoruni

【ドラマ公式サイト】
https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/

©2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS ©爪切男/扶桑社

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単行本・文庫本:『死にたい夜にかぎって』詳細情報


作者:爪切男
単行本・文庫本好評発売中
発行元:株式会社 扶桑社

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・作者プロフィール:爪切男 (つめきりお)
’79年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』 が人気。’14年、『夫のちんぽが入らない』 の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』が話題となる。’15年に頒布したブログ本も、文学フリマで行列を生んだ。本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。週刊SPA!!では、労働エッセイ『働きアリに花束を』が好評連載中。

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文庫本:『死にたい夜にかぎって』

賀来賢人主演、連続テレビドラマ化決定!

単行本:『死にたい夜にかぎって』

単行本も是非チェックいただきたい!

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