更新日:2023年05月24日 15:13
エンタメ

なぜ、病みつきになる? 賀来賢人主演ドラマ『死にたい夜にかぎって』原作者・爪切男の魅力を徹底解剖!

 爪切男が恋愛体験をせきららに綴った私小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社刊)。一度読んだらもう病みつき、なぜか女性ファンも急増中という同小説が、人気俳優・賀来賢人主演で連ドラ化された。失礼ながら似ても似つかぬ真逆の風貌、ところが回を重ねるごとに、賀来がどんどん“爪化”していくから、まぁ不思議。これは賀来の演技力が凄いのか、それとも爪の原作力が凄いのか。  何はともあれ、じわじわとブームの兆しが見える中、『よみタイ』で連載中のスクールエッセイ『クラスメイトの女子、全員好きでした』も好評の爪を丸裸にすべく、彼を担当する二人の編集者、『週刊SPA!』の高石智一氏と『よみタイ』の宮崎幸二氏に呼びかけ、三者による鼎談を実施した。さてさて、どんな話が飛び出すのか?

『死にたい夜にかぎって』著者の爪切男。作家デビューのきっかけを掴んだSPA!編集部にて

左から、よみタイ編集部『クラスメイトの女子、全員好きでした』担当の宮崎幸二、爪切男、SPA!編集部『死にたい夜にかぎって』担当の高石智一

●ドラマ化は俺にとって奇跡的な出来事(爪切男)

――爪さん渾身の一作『死にたい夜にかぎって』が連続テレビドラマ化され、しかも主人公・小野浩史役を賀来賢人さん、恋人役の橋本アスカ役を山本舞香さんという豪華キャスト。第一報を聞いた時はどんな気持ちでしたか? 爪:完全にドッキリだと思いました。絶対ウソだと思って、撮影現場も見学させていただいたんですが、最近のドッキリは手が込んでいるので、それでも信じられなかった。第一話が放送された日も友達に電話して、「お前の家のテレビでもドラマやってるか?」と確認したくらい(笑)。結局、ツイッターでみんながつぶやき出したのを見て、ようやく信じることができた。それほど俺にとっては奇跡的な出来事でした。 高石:映像化のお話はたくさんいただいたのですが、いちばん最初に声をかけてくださった村尾嘉昭監督(『アンナチュラル』『リバース』他)に託すことにしました。ドラマを観ながら、村尾さんでよかったなって、毎週思っています。ドラマ、素晴らしかったですよね? 爪:俺の場合、ベースが自分の実体験なので、身につまされる部分とか、改めて気づかされる部分も多かったですね。「俺ってこんなにダメな男だったのか?」みたいな(笑)。でも、ドラマは本当に素晴らしかった。最初は恥ずかしいやら信じられないやらで、恐る恐るテレビをつけたんですが、賀来さんと山本さんの最初のシーンを観たら、全部観たくなっちゃって。それくらい力を感じたので、ありがたかったです。 高石:撮影現場や先行試写のイベントで何度か賀来さんとお会いしたんですが、小顔だしスタイルもよくて、どの角度から見てもかっこいい。でも、このドラマではそれをすべて打ち消すかのように冴えない主人公・浩史に寄せていて、観ているうちに爪さんとダブって見える瞬間があって驚きましたね。各話30分のドラマですが、「短すぎる、もっと観たい!」っていう気持ちになりました。 宮崎:確かに賀来さんと山本さんが醸し出す世界観が凄く良かったですね。特にアスカを演じた山本さんが飛び抜けていて、この子だったら絶対に好きになるよなって。視聴者も、浩史がなぜ彼女に惹かれたか、理由がなくても一発でわかる。「大事にしたい」という女の子像が初回から描けていたのは、凄いなと思いました。 高石:男の手に負えない感も出ていましたしね。好きになるのを躊躇してしまうような危険性というか。でもそこも原作のアスカにピッタリで。キャスティングされた方、すごい。

爪切男のデビュー作『死にたい夜にかぎって』は賀来賢人主演でドラマ化された

ドラマ『死にたい夜にかぎって』ビジュアル。原作との世界観がマッチしている。

――唾を売買するシーンは、やはり映像で観るとインパクトありますよね。 爪:俺も話を聞いていただけなので、おおっ!てなりましたね。放送を観た人も「本当にこういう世界あるの?」って言ってましたけど、本当にあるんですよ。 高石:いわゆるブルセラの系統ですよね? 爪:そうです。マニアがよく使う某出会い系サイトがあって、そこにみんな暗証番号を入れないと見られない掲示板を作るんですが、ここの管理がかなり緩くて、ちょっとえげつないことを書いても消されないらしいんですよ。そこに「唾売り掲示板」があったらしくて、アスカもここで話を進めていたようです。今はわかりませんが、バイトとして考えると割がいいので、結構やる人、いたらしいですよ。

●爪切男は絶対にヤバイ人だと思ってた(高石)

漫画『おとこの口紅』Tシャツを愛用している。リバーシブルのスカジャンは最近ネット通販で買った

――ブログから始まり、連載、小説、そしてドラマ化と成功の階段を着々と登っている爪さん。もともと、高石さんがその才能を見出したとお聞きしていますが、その経緯はどんな感じだったのでしょう。 高石:まんきつ(まんしゅうきつこ)さんという漫画家さんにSPA!で映画コラムを書いていただいてたんですが、「コラム連載を辞めたい」と言われた時、「次は誰がいいですかね?」と聞いたんです。そしたら、『夫のちんぽが入らない』のこだまさんと、『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』というブログが人気だった爪さんを推薦していただいて。その時は、爪さん、面白いけど、ブログを読む限り絶対にヤバイ人だと思って、こだまさんにお願いしたんですが、文学フリマという同人誌の即売会に行った時に、こだまさんと一緒に爪さんもたまたま出店していて、そこで初めてお会いしたんです。そしたら、危険人物どころか、めちゃくちゃ腰の低い方で(笑)。それがきっかけで何か連載をやってみようということになって、SPA!のWeb版で『タクシー×ハンター』がスタートしました。でもなんでタクシーの話になったんでしたっけ? 爪:タクシーの取材にトラウマがある、という話をしたからじゃないですか? あるカルチャー誌がリニューアルした時にルポの依頼があって、EXILEの曲ばかり流して、車内を豹柄にしている有名なタクシー・ザイルタクシーがあるから、取材してきてほしいと頼まれたんですが、実際に会いに行ったらタクシーも魅力的だったけど、俺は運転手さんのキャラの方が面白くて(笑)だからそっちを膨らませた原稿を提出したら、「タクシーのことを中心に書きましょう」って言われて(笑)。その時の自分の力では面白い原稿を書き切れなかった。それでトラウマだけが残りました。そんな話をしていたら、高石さんが「じゃあ、タクシーの連載やろうよ」ってことになった。 高石:爪さんは、人との関わりとか自分の過去を綴るのがうまいと思っていたので、タクシーの運転手さんとのやりとりと、過去の自分の話を組み合わせて書いたら面白いんじゃないかな?と思ったんですよね。連載がスタートし概ね好調だったんですが、だんだん女性が登場する回が増えてきて、それとともにPVや評判がすごく良くなってきた。なるほど、爪さんが語る女性は、読者の心に響く要素が多いんだなと。女性の話、特にアスカという重要人物を中心に『死にたい夜にかぎって』として一冊の本にまとめようという企画も、そういう流れがあったからなんですね。 ――『クラスメイトの女子、全員好きでした』が好評の宮崎さんは、どんな出会いだったのでしょう?

『よみタイ』にて好評連載中の『クラスメイトの女子、全員好きでした』

宮崎:僕は途中から担当を引き継いだんですが、もともとは『日刊SPA!』の連載などを読んでいた後輩が、「爪さんと何かやってみたい」と企画案を出してきたのが始まりなんです。爪さんとは世代が近いし、田舎も爪さんが香川、僕が香川寄りの愛媛で近いこともあって、その世界観に凄く共感していたので、ぜひ連載をお願いしよう!と。実際、うちの連載の一話目を読んだ時も、僕みたいな中年おじさんが、ふと小学校、中学校の卒業アルバムを見たくなりましたし(笑)。 爪:このエッセイに関しては、僕からテーマを提案させていただいたんですが、なぜか女性の読者が褒めてくれることが多くて嬉しいですね。 宮崎:『よみタイ』はまだ始まったばかりのサイトですが、読者の6~7割が女性層というのもあるかもしれませんね。でも、『死にたい夜にかぎって』も意外と女性に好評だと聞いています。 爪:書いている時は、男性にしか響かないだろうなと思っていましたが、10代、20代の若い女性が結構買ってたりするみたいで。ただ、それが私生活に還元されない(多分、なかなかモテないという意味)のが悔しい(笑)。 宮崎:爪さんの素晴らしいところは、「女性をどう見ていたか」という視点と記憶。本人を特定できる話になってしまうとまずいので、設定は多少ずらしてもらってはいますが、本筋みたいなものは変わっていないので全然作り物感はないし、創作では絶対にできない。このエッセイは『死にたい夜にかぎって』と補完し合える関係性があると、個人的には思っているんです。少年時代にこういう視点、審美眼、観察眼があったからこそ、アスカみたいな女の子と出会い、恋をし、そしてあの小説が生まれたというルーツ的な意味合いで。
次のページ right-delta
締め切りが遅れても面白いから許しちゃう
1
2
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::@Backyard_com)

記事一覧へ
【書籍情報】
『死にたい夜にかぎって』
作者:爪切男
単行本・文庫本好評発売中
発行元:株式会社 扶桑社
・原作本公式サイト:https://www.fusosha.co.jp/special/tsumekiriman/

【連載】
『よみタイ』にて『クラスメイトの女子、全員好きでした』(『よみタイ』/集英社)
https://yomitai.jp/series/classmate/

【ドラマ情報】
ドラマ『死にたい夜にかぎって』
ドラマ版公式サイト:https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/

番組公式SNS
・ドラマ公式Twitter:@shinitai_yoruni
・ドラマ公式Instagram:shinitai_yoruni

主演:賀来賢人
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也(ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』)
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント MBS

【放送・配信情報】
MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』
MBS毎週日曜深夜24:50~ TBS毎週火曜深夜25:28~
TSUTAYAプレミアム、TVer、MBS動画イズムでも配信中
TSUTAYA特設ページ:http://tsutaya.jp/syk_p/

*********************

文庫本:『死にたい夜にかぎって』

賀来賢人主演、連続テレビドラマ化決定!

単行本:『死にたい夜にかぎって』

単行本も是非チェックいただきたい!

おすすめ記事