更新日:2023年05月24日 15:47
エンタメ

志村けんの笑いには“毒”があった。放送コードを飛び越えお茶の間で愛されたワケ

志村けんの死は“友達を失ったような寂しさ”

 この4月で私は52歳になった。いつの頃からか「もしこの人が死んだとき、私の喪失感はいくばくだろうか?」と、漠然とした恐れを抱きながら、何人かの有名人を、思い浮かべるようになった。自分の生き方に影響を及ぼした人物がいなくなったとき、自分はどうなるんだろう? ヒーローの死は、人生の折り返し地点を、自分が遠の昔に通り過ぎていることを強く実感させるだろう。そんなことを考えるようになっていた。  アントニオ猪木とビートたけしが思い浮かんだ。仰ぎ見るカリスマたちだ。ギラギラとした野心家で、世間と摩擦を生じながら生きる。人生を語り、物の見方や価値観を私に植え付けた。
志村けんのバカ殿様 DVD-BOX

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 志村けんが亡くなって友達を失ったように寂しい。友達はあえて人生を語ったりしない。面倒臭い話はなしだ。おかしな言い方だが志村けんは、等身大のカリスマだった。ヒーローの死に際して、こうしたしみじみとした悲しみを感じることを私は想定していなかった。  70歳のスーパースター、志村けんを「友達」などと言うのはおこがましい。しかし私たち世代は『8時だョ!全員集合』(TBS系)で、半ズボンを履いて、10円ハゲのカツラを被った、子供役の志村けんに「志村、うしろ! うしろ!」と、ブラウン管越しにタメ口をきいていた。いまだに友達と勘違いしている。  今から24年前インターネットもまだ一般的でない時代に「志村けん死亡説」が広がった。さらに、レインボーブリッジのたもとに建つ三角形をした特徴的な高層ビルがあるのだが、そこに志村けんが住んでいると、ある時期、様々なテレビマンから噂を聞かされた。口裂け女じゃないんだから。  こうした妙な噂が立つ訳は、志村けんの独特な存在感にある。「素」を見せない志村けんは、実像が見えない。また俗っぽさがないため、浮世離れした浮遊感がある。最近はトーク番組に出演したり「素」を見せてはいたが、浮遊感は相変わらずだ。視聴者にとっても、志村けん本人の中でも、実像とキャラクターが限りなく近づいて来ていたのかもしれない。  志村けんの訃報は、私にたこ八郎のそれを思い出させた。どちらも、とてもイノセントな存在が突然消えてしまったような感触があった。2人ともなんだか妖精のようだ。酒の妖精だ。実際、志村けんとともに、「変なおじさん」「バカ殿」といった妖精(妖怪?)も消えてしまった。
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現行のテレビ番組の中で最も「毒」があった
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1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

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