ニートだって向上心や目標が必要だ
――石井さんは、山奥に暮らしていて人恋しくはなりませんか?
石井:ネットがありますからね。コロナ禍でビデオ通話に抵抗がなくなった人が多いので、オンライン飲み会もよくやりますよ。
pha:もはや、ネットがあれば東京も山奥も生活はあまり変わらないのかも。そもそもコロナ以降は、人に会う機会も減ったし。
石井:そういえば、phaさんに伺いたいことがあったんです。6年前は「ネットがあれば、豊かな日本ならニートでも十分暮らしていける」とおっしゃっていましたが、今でもネットを信頼していますか? 僕の場合、ネットがなければ仲間を集められないし、限界集落でシェアハウスに住む選択肢は成り立たなかったと思ってます。
pha:以前ほど信頼してないですね。当時は、ネットに参加するのは一部の人だけだったけど、今は誰もが参加できるから場が荒れている。シェアハウスも同じだけど、一定のハードルがないと秩序が保たれないのだと思います。
石井:ネットの代わりになっている、拠りどころはありますか?
pha:それが僕にとってはリアルな人間関係だと思う。だからこそ、東京を離れられないのかも。
現在、15人いる住人は、それぞれ個室住まい。年齢層は20~40代と幅広い。最低限の家具や寝具は整っているため、初期費用も不要だ
――「他人と同じ生き方をしないこと」に不安を感じませんか?
pha:僕はあまり感じないです。多くの人は「老後が不安だから働かなくちゃ」「家族をつくらなきゃ」と言いますよね。それも正しいけれども、激務で心を病んだり、不仲で離婚したりするリスクもある。どちらも一長一短があるのでは。
石井:僕も不安はあまりないです。ただ、向上心は必要ですよね。最近、取材を受けると、「『みんなありのままに生きればいいんだよ』と言わせたいんだな」という圧を感じるんですが、そうじゃない。ニートだって目標は持つべきです。
pha:目標ややることがないと、人としてつらいですよね。
裏手には家庭菜園もあり。「ときには近所の人が野菜をくれることも。肉や魚は、山を下りて、スーパーで大量に買い込んできます」
――現在のお二人の目標は?
pha:僕は文章を書くことを続けたいです。ただ、これは自分が好きなことだから、正直「仕事」という感覚はない。文章を書く仕事がなくなって、嫌なことをしないとお金を稼げなくなったら、東京を離れて生活費のかからない山奥に住むのもありだなと思います。
石井:僕が目指すのは「持続可能なニート」です。ニートは人生のモラトリアム期間だと思われがちですが、僕はそう思いません。今、僕は自分の生活に納得しているし、今後もずっと続けていきたい。それを支えるために、月数万円分働くのは苦じゃないです。あと、実は僕は都会が好きなので、もっと人を集めて、この周辺をコンビニやマックがある都会にしたい。都会ではつらくても、山奥でならストレスなく暮らせる人は、きっと大勢いるはずですから。
肩書や年収よりも大切なのは、自分が納得できること。そんな「持続可能な生き方」こそが、今後求められていくのかもしれない。
【石井あらた氏】
’88年生まれ。NPO法人「共生舎」理事。教育実習の体験から引きこもりになり、大学を中退。’14年に和歌山の山奥へ移住。初の著書『「山奥ニート」やってます。』(光文社)が発売
【pha氏】
’78年生まれ。京都大学を卒業し、会社員を経た後、ニートのシェアハウス「ギークハウス」を立ち上げる。現在は文筆業が主な収入源。著書に『がんばらない練習』(幻冬舎)など多数
取材・文/藤村はるな 撮影/高石智一(本誌)