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逃げ出したい作家二人が逃げずに書き続ける理由<燃え殻×矢部太郎>

我々はエモいのか? ほっこりなのか?

矢部:小説を読んだ時も思ったんですけど、燃え殻さんの書くものって、終わりに余韻があるというか。なんか嗅がされて終わる、みたいな。その匂いが、自分の記憶を思い出すトリガーになるんです。 燃え殻:4コマ漫画で言うと、2コマ目で終わってしまう、みたいな作品が好きなんです。情景だけを切り取って、答えは出さずに問いだけ差し出す、みたいな。その影響かな。 矢部:文章の後に出てくる長尾謙一郎さんの絵って、話の内容とはあまり関係ないものもあったりしますよね。それって燃え殻さんの文章を読んで、長尾さんも記憶とか想像力のトリガーを引かれた結果なんじゃないかな、と思ったりしました。 燃え殻:だとしたら嬉しいですね。担当編集に無理を言ってカラー収録してもらった長尾さんの絵がね、全部最高なんですよ……。矢部さんの『大家さんと僕』も、それこそ余韻があるというか、あえてオチをつけずにさあーっと流れていく感じがありますよね。湿っぽくなりそうになったら少し浮上させて、でも浮上させすぎないみたいな、心地いい温度がずっと続いている。 矢部:『大家さんと僕』は8コマ漫画の形式で描いているんですけど、4コマだとオチがちゃんとしてないとダメだから、向いてないなと思ったんです。でも8コマだったら、オチてなくてもぬるっと読めるのかも、と思って。

「エモい」と思って書いてるわけじゃない

燃え殻:今回の本を作る時に悩んだのは、連載だったら1本だけで終わるけど、本は何編も連なっていくので、あまりにもわかりやすく「エモい」ものだと、読者を立ち止まらせちゃうかもしれないということだったんです。連載した70本の中から50本を選んだんですけど、「エモい」ものは抜いていった感じでした。……「エモい」って、自分で言っておきながらあまり好きじゃない言葉なんですけど(笑)。 矢部:きっと「エモい」と思って書いてるわけじゃない、ですよね。 燃え殻:そうですね。「エモい」と言えば話が早いだろうから、もうあまり抵抗はしてないですけど、雑なくくりですよね。何か記憶を呼び起こすきっかけになる情景や匂いがあって、過去と今が繫がっていく感じが、僕の中ではリアルというか、単に好みなだけなんです。 矢部:僕も、本の帯に「みんなほっこり」と書かれていて。「みんな」ってすごい圧ですよね(笑)。自分は別にほっこりさせようと思って描いてないし、漫画の中でも大家さんのことを普通にイジってますし。どうかと思う態度だったりもするので、ほっこりなのかなぁと。 ※8/18発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです 【燃え殻】 ’73年生まれ。テレビ美術制作会社に勤務しながら、作家、コラムニストとして活躍。’17年、初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)がベストセラーに。本誌連載をまとめた『すべて忘れてしまうから』(扶桑社刊)が発売中 【矢部太郎】 ’77年生まれ。お笑い芸人、マンガ家。自身が住むアパートの大家さんとの交流を描いた『大家さんと僕』(新潮社)が120万部超のベストセラーに。絵本作家である父・やべみつのりをテーマに描く「ぼくのお父さん」を『小説新潮』で連載中 <取材・文/吉田大助 撮影/神藤 剛 協力/猫目>
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燃え殻『すべて忘れてしまうから』』(扶桑社刊)

『ボクたちはみんな大人になれなかった』がベストセラーとなった燃え殻による待望の第2作。ふとした瞬間におとずれる、もう戻れない日々との再会。ときに狼狽え、ときに心揺さぶられながら、すべて忘れてしまう日常にささやかな抵抗を試みる回顧録


週刊SPA!8/25号(8/18発売)

表紙の人/ 奈緒

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