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母親たちに求められる「育児か経済か」の選択。価値観の違いで対立も

「通報されるのが怖い」育児相談に行ったところ…

 同じく都内在住の綾さん(仮名・27歳)は、0歳と5歳児を抱える母親。地域の育児相談に行った結果、施設から児童相談所へ通報されてしまった。 「家にいる時間が長くなって、子供もストレスを感じているみたいで……前よりわがままになってしまったんです。5歳の長女が言うことをどうしても聞いてくれず、思わず『ダメだよ』って軽くぺちんと叩いてしまいました」  子供に手を上げてしまったことを後悔した綾さんは、住んでいる自治体が行っている子育て相談室に相談。「5歳の子への注意ってどうしたらいいんでしょうか。この前軽く叩いちゃって……」と伝えたところ、その場で児童相談所案件になってしまったそうだ。 「児童相談所からの家庭訪問があり、その時は夫と児相のカウンセラーさんと話をしてそれ以上の大事にはなりませんでしたが、今回の事で余計に精神が参ってしまいました。何か相談したくてもまた通報されてしまったらと思うと、もうどこにも相談できません」  従来の児童虐待防止法では、児童相談所への通告対象となるのは「児童虐待を受けた児童」であった。  しかし年々増加する虐待事件を受け、平成16年に児童虐待防止法が改正。通告対象が「児童虐待を受けたと思われる児童」に拡大された。「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」など、虐待に関する対策・ガイドライン整備も進んでいる。  その一方で、綾さんのように「虐待と思われたらどうしよう」と悩み、誰にも相談できない母親も増えているのは事実だ。

地方特有の「監視」と「比較」

田舎 都会の母親たちの「孤立化」が進む一方で、比較的人との交流が多いイメージがある地方はどうだろうか。「地方にいるからこそ、他の母親と比べられる」と語るのは、福島県在住の美佳さん(仮名・33歳)だ。 「地方で田舎だからこそ、『あそこのママはこうなのに、アナタはどうなの?』と言われることも多いです。比べられるのが嫌で、コロナ以前から人付き合いは極力避けていました」  美佳さんは現在3歳の娘を育てているが、夫は多忙で「ワンオペ育児」状態だ。自身も子育ての合間を縫って在宅仕事をしており、休む暇も逃げ場もないと涙ぐむ。 「地域内で『あのママは立派ね』と言われる人たちは、実家が近かったり、旦那が協力的だったり、恵まれた環境の人が多いです。でも私は実家も遠いし、一人で育てないといけない。他のママさんたちと比べて自己嫌悪に陥ってしまうので、必要以上に付き合わないようにしています」  地方特有の「ムラ社会」気質がゆえに孤立化するパターンだ。それでもコロナ以前はまだ人との交流があったという。 「今は近場の公園が封鎖されているので、子供を外で遊ばせる場所がありません。車で行ける範囲に遊べる公園がないので、他の地域の公園に行く必要がありますが、そこでは既にコミュニティができあがっています。地域以外の人と交流したくないママ友コミュニティも多いので、遊びに行っても結果的に孤立してしまいます」  コロナがきっかけでより顕著となった母親たちの育児問題。孤独を抱えて悲鳴を上げる彼女たちを救う手はあるのだろうか。<取材・文/倉本菜生>
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0
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