母親たちに求められる「育児か経済か」の選択。価値観の違いで対立も
コロナ禍においてとかく議論が紛糾しがちなのが、自粛を徹底するか、経済を優先するかの二元論。どちらを選択するかで、さまざまな社会問題が浮き彫りとなる中、母親たちの間でも「自粛派」と「経済派」の対立が起こっているのだ。
「初めての育児なのに、我が子に“普通”を経験させてあげられない」と悩むのは、東京都在住の加奈さん(仮名・30歳)。
加奈さんは昨年末に第一子を出産。産褥期(※体が妊娠前の状態に戻るまでの期間)を経て外出できるようになった頃、コロナ禍に見舞われた。
「私のようにコロナの流行直前に出産していると、やっと動ける体になっても外出できず、子供と家にこもりきりです。公園にも気軽に遊びに行けないし、ほぼ毎日子供と一緒に家で過ごしています。“普通の子育て”を知らないので、余計にいろんなことを神経質に考えてしまいます」
子供と一緒に外出し、公園などで遊ばせてあげて、たくさんのものに触れさせる。そういった「普通」の育児ができず、歯がゆさを感じているという。
「よく言う、『つらかったら夫に子供を見てもらって、妻だけ外に息抜きにいく』が叶わない状況なので、逃げ出すこともできずに参っています。うちは夫も在宅勤務。コロナを持ち帰ってしまうかもしれないと考えると、自分だけ外へ遊びに行くのは怖くてできません」
いわゆる自粛派の加奈さんだが、経済派のママ友からの言葉も育児へのプレッシャーを感じる一因となっている。
経済派の母親たちは、「また緊急事態宣言が出たら今度はいつ出かけられるか分からない」と、旅行などを楽しんでいるそうだ。
加奈さんはコロナ以降、電車に乗らない・移動範囲は徒歩圏内のみを徹底している。一方で経済派のママ友たちからは、ホテルでのお茶会への誘いなどがあり、危機管理や価値観の面で違いがはっきり出たという。
加奈さんら自粛派の母親たちに対し、経済派のママ友は「気にしすぎ」と笑う。
「子供は感染しても重症化しないらしいよとか、一回かかって免疫つけた方が楽かもよ? とか言われます。自粛していてもスーパーとかで感染する可能性があるから、どうせなら外出した方がよくない? と言われたことも。そういう人たちは週末にディズニーランドに行ったり、お盆は地元に帰省していたりして、自粛している自分たちは何なんだろうと思ってしまいます」
育児書などには、幼児期の体験を重要視するものも多い。加奈さんも経済派のママ友から、「今いろんな人に会わせないと人見知りになるかも」と不安を煽られたそうだ。
「彼女たちの言っていることも分からなくはないんですが……気軽に行動しているのを見てしまうと、付き合い方を変えよう、距離を置こうと考えてしまいます。コロナをきっかけに人付き合いは本当に変わりました」
0歳児を抱えた中で行動が制限されていることに対し、ストレスが溜まるという加奈さん。
「どこにも連れて行ってあげられないから、こころの発育は大丈夫かなって毎日心配です。それを考えると、危険を冒してでも外出しているママさんを羨ましいと思います。今は少しずつ自粛派のママ友とZoomママ会などをしていますが、実際に会えているわけではないので、子供の体験としてはゼロですし……」
システムエンジニアとして在宅勤務している夫にも、コロナ禍での育児について話を聞いてみた。
「家にずっといる分、なるべく育児や家事は協力するようにしています。毎日のお風呂や寝かしつけは交代でやって、オムツ替えは気付いた人がやる、と分担しています。コロナだからと育児でストレスは特に抱えていません。むしろリモートワークになって、家庭でのちょっとした手伝いができるので良い面が多いと思います」(夫、30代)
そう語る夫に対し、加奈さんはどう感じているのか。
「子供がまだ小さいから、今の時期に家にいてくれて大人の目が多いのは助かっています。でも夫が家にいるからこそ、いつもなら適当に済ませていたお昼ご飯をちゃんと作らないといけない。家事を前倒しにする必要もあるので、大変な面もあります」
夫の協力がある分、まだ救いがあると語る加奈さんだが、一方で「ワンオペ育児」の末に孤立化で苦しむ母親たちも多い。
その結果、自粛派の母親たちは孤立を深め、外部に助けを求められない状況へと陥っている。
「経済派」のママ友と疎遠に。夫の助けはあるものの……
外食や旅行も気にしない…価値観の違いにウンザリ
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福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院修了。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。X(旧Twitter):@0ElectricSheep0、Instagram:@0ElectricSheep0
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