数多くの表情を見せるパンチパーマの奥深さ
パンチパーマ普及委員会なるものがある。その活動拠点となっているのが岐阜県関市にある理容店「
BONO hair」。委員会立ち上げの発起人で、造園業を営む秋山和宏さんは、4年前に人生初のパンチパーマをここでかけた。
「仕事柄、帽子を被って屋外で作業をするので頭皮が蒸れてしまいます。そのせいで短髪でも頭皮に髪の毛が引っつき、まるで海苔のよう。直そうと髪の毛をかき上げてもハリネズミみたいにボサボサ。お客さまと会話するときに帽子を脱ぎますが、どちらも見苦しいし、清潔感からはほど遠い」
秋山和宏さん
そこでオーナーの久後靖幸さんに相談。「形状記憶パーマ」との異名をとるパンチパーマを提案された。サイドを刈り上げ、清涼感をたっぷり含みながらも男らしさ漂うパンチスタイルに踏み切った。
「超楽ちん。この一言に尽きます。セットの手間はないし、髪の毛が汗で寝ていてもかき上げれば元に戻ります。私にとってパンチは、超ハイスペックな髪形です」
これまで秋山さんを中心とした啓蒙活動のかいあって、滋賀県に普及委員会の支部ができるまでに至っている。今回、普及委員会の呼びかけに賛同してくれた山口さんは、初めてパンチをかけた。「強面な感じになると思っていましたが、スポーティで爽やかだしハーフっぽい雰囲気」と笑顔が絶えない。
【山口さん】BEFORE→AFTER
一方、定期的にパンチをかけている小倉さんは「先輩や上司から頭を触られてかわいがってもらえるし、キャバクラの客引きも声をかけてこないので男としての格が上がった気がしています。今のあだ名は漫画『ビーバップハイスクール』の“菊リン”」と、パンチヘアを処世術として生かしている。
【小倉さん】BEFORE→AFTER
「パンチパーマは髪形ではなく技術なんです。それにロッドでは難しい毛の流れ感や束感も強制的に作れます。髪形のバリエーションも実に豊富なんです。“くるくる×ちりちり”の大仏頭はその一つにすぎません」(久後さん)
久後靖幸さん
急遽、現場に駆けつけて手伝ってくれた理容店「
Dressing」の代表・宇野竜三さんはパンチの魅力についてこう解説する。
「山口さんの髪形は、8㎜のコテで前髪からトップにかけて前方向に巻いて作った今はやりの“クロップ”スタイル。髪の毛の長さが数ミリでもいろいろな方向に動きをつけられるので、デザイン性の高い髪形を幅広く表現できます」
宇野竜三さん
近年のジェンダーレスの流れで中性的な髪形を好む男性は多い。だが、「その流れに反発し、“男らしさ”を求めてパンチにする若者は増えています」と久後さんが言うように、見た目はまったく違っても、パンチが“強い男”の象徴であることは昔も今も変わらないのかもしれない。時代に合わせパンチも進化しているのだ。
【岡本兄弟】
濡れパン誕生に関わり、全国の祭り好きな若者からカリスマと崇められている。翔平さんのインスタグラムは
@the_saikoukai。
【延 陽介さん】
Hair Salon NOBU since1958オーナー。上品な男らしさを漂わす濡れパンは、「隔週でのカットと月1のパーマが必要。半年先まで予約を入れる客も多い」と話す。インスタグラムは
@bigman_nobu。
【秋山和宏さん】
「他人を威圧するためにパンチにしているのではない」と強調する秋山さん(38歳)。パンチ愛好家として啓蒙活動に努めている。
【宇野竜三さん】
番長と慕われる理容店「Dressing」代表。インスタグラムは
@dressing1991。
【久後靖幸さん】
BONO hairオーナー。「縮毛風の独特な仕上がりもパンチが人気の理由です。また、日本人の硬い髪の毛を曲げてしなやかに見せるにはパンチパーマはうってつけ」と語る。
<取材・文/谷口伸仁 撮影/武田敏将 取材・撮影/高石智一(本誌)>