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先端技術への投資に異を唱えていた日本学術会議/国防ジャーナリスト・小笠原理恵

「国際リニアコライダー計画」への反対

研究 東日本大震災復興の後、岩手・北上山地にヒッグス粒子や、宇宙を構成するダークマター(暗黒物質)などを解明しようという「国際リニアコライダー」をつくる計画があります。これが実現するとアジアで初の国際研究科学機構となり、世界の最先端をいく物理学者等が多数集まり、この地で長期間にわたって宇宙の解明をすることになるわけです。高度人材を誘致し、さまざまな投資が始まることが期待できます。日本に最先端科学の恩恵をもたらす国家プロジェクトと考えられていましたが、これに執拗に反対していたのが日本学術会議でした。  日本はこの素粒子物理学の分野で世界をリードしてきました。中間子理論を提唱した湯川秀樹博士から、近年のニュートリノ天文学の小柴昌俊氏、6つ以上のクォークの存在を予測した益川敏英氏など多くのノーベル物理学賞受賞も素粒子の研究です。AIやサイバー空間では劣勢な日本ですが、素粒子研究では世界の最先端をキープしたいところです。しかし、科学を推進するべき学術会議が予算問題で反対しています。  確かに、日本では研究開発予算を潤沢に使えず、ノーベル賞の山中伸弥教授が率いる iPS細胞研究所ですら寄付を集めながら研究を続けています。だからこそ、「国際リニアコライダー計画」のような世界から投資を呼び込めるチャンスへ果敢な挑戦をしてほしいものです。

ゲノム編集技術 CRISPR-Cas (クリスパー・キャス)

 2020年にノーベル化学賞を受賞したゲノム編集技術 CRISPR-Cas (クリスパー・キャス)は、分子のハサミを使ってヒトの遺伝子を無機能化したり、変更したりすることができる画期的なものです。その原理は1987年に分子生物学者・石野良純氏(九州大学教授)らによって発見されたものでした。しかし、その後のゲノム編集技術に至る研究は米国に移りました。  クリスパー・キャスは、そもそもバクテリアがウイルスから身を守るためのシステムです。ウイルスからゲノムの断片を切断して蓄積する機能をクリスパー・キャスが持っていますから、これを使って、たとえば新型コロナウイルス感染症などの研究ができるのではと期待されています。  これは山中教授の iPS細胞研究とともに重要な医学研究となることは間違いないと思います。しかし、最初のきっかけをつくった日本人が研究を続けていく土壌が日本になかったことが寂しい限りです。発見段階では使える技術かどうかがわからないような基礎研究が世界を変える可能性があったという一例です。短絡的な判断しかできない国は得られたかもしれない多くの成果を失ってしまいます。  また、このクリスパー・キャス技術は研究段階で中国の研究者の協力を受けたため裁判となっています。先端医療技術研究の成果を争奪する戦いはここにもあります。日本もその技術保全と基礎研究の育成をバランスよく見定める政策が必要です。いつ足元をすくわれ重要な研究成果が持ち去られるかわからない危機感のない機関には到底できる仕事ではありません。  昭和の学術研究を推進してきた日本学術会議がこの国際競争に真摯に向き合い日本の国益のために活動する組織になるにはかなりの改革と改善が必要ではないかと思います。  世界でも特に権威のある総合学術雑誌のNatureが日本学術会議の人事問題を引用した記事中で、「政府からの資金は白紙手形ではない」と言っています。白紙手形ではないので10億の予算を受けた日本学術会議はその分の仕事をしていただきたいものです。 小笠原理恵 国防ジャーナリスト
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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