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アパートで大麻草を“栽培”した男たちの法廷劇<薬物裁判556日傍聴記>

 俳優の伊勢谷友介氏が大麻取締法違反(所持)で逮捕・起訴されて以降、メディアで「大麻」の二文字をよく目にする。556日間薬物事案の裁判を傍聴した斉藤総一さんの記録から今回紹介するのも「大麻所持」で逮捕・起訴された内装業を営む自営業・井上功一という男性の裁判だ。伊勢谷氏は自宅アパートで7.8gを所持していたとのことだが、こちらは大麻17株を栽培したうえに、76gを所持。共犯者とみられる友人の北村拓也と共謀し、大麻草を栽培し、大量の乾燥大麻を所持していた。果たしてどんな人間なのか。共犯者の法廷と合わせ、2度に分けて見ていきたい。

斎藤聡一さん

     *** ※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

大麻76gを所持していた男

 最初はいつものように、警察の冒頭陳述を見ましょう。井上功一被告はなぜ逮捕されたのか? 検察官「被告人は友人の北村拓也と共謀のうえ、みだりに平成28年1月下旬頃から同年4月21日までの間、さいたま市浦和区橋場2-13-40野菊荘201号室において、ロックウールに大麻の種子を植え、播種し、発芽させるなどしたうえ、これらを植木鉢に移植し、水、肥料を与え、照明器具で光を照射するなどして、大麻草17株を育成し、持って大麻を栽培し、同年3月20日、前記場所において大麻である76.17gを所持したものである、となります」 裁判官「井上さんはあらかじめ、黙秘権があるというのを前提に、訴因変更された、いま読み上げられた公訴事実の内容、どこか間違っている点はありますか?」 被告人「ありません」 裁判官「弁護人のご意見をお願いします」 弁護人「被告人と同様で、公訴事実は争いません」  訴因変更とは、文字通り裁判中に起訴状の訴因を追加したり変更すること。この裁判(被告の名は井上功一)にはいくつかの見どころがありましたが、そのうちのひとつは情状証人として被告の実父が証言台に立ったことでしょうか。 弁護人「では弁護人から質問させていただきます。あまり緊張なさらないで結構ですので、答えてください。今回の事件について聞いていきます。今回、功一さんはどんな事件で捕まってしまったかお父さんの口で説明してほしいんですけども説明できますか?」 証人(父親)「はい。息子が共謀して大麻17株を栽培し、乾燥大麻76gを所持していたと聞いております」 弁護人「今の気持ちを聞きたいんですけど、功一さんがこういう事件を起こしてしまったということで、お父様としては、どういうお気持ちでしょうか?」 証人「私と妻と生活を一緒にしていて、親としてですね、法を犯したということに対し、もう少し我々が親として何かやれるべきことはあったのではないかと深く反省しております」 弁護士「今回の事件ですけど、アパートで所持や栽培が行われていたのは知っていますか?」 証人「ええ。アパートで栽培をしていたと聞いています」 弁護人「犯行現場となったアパートですが、なんで息子さんが借りていたか解りますか?」 証人「これは彼が内装工事の仕事を立ち上げるために、一生懸命会社を立ち上げたんですけども、資材置き場が足りなくなってきました。それは私どもが借りているマンションの中にも駐車場に放置されたりして問題となっていたため、私からもアパートを借りるように言っていましたので、内装工事の資材置き場としてアパートを借りることを承知していました」 弁護人「お父さんはそこで保証人になったんでしたっけ?」 証人「そこでは緊急連絡先ということでした」 弁護人「内装業の資材置き場として借りていたアパートの中で、何をやっていたか、何が行われていたのかを確認したことはありましたか?」 証人「いえ、確認はしていません」 弁護人「確認しなかった理由というのは説明できますか?」 証人「まさか、そういうことが行われるなんて、思っておりませんでした。内装工事の仕事を立ち上げるために一生懸命仕事をしているもんだと思っておりました」 弁護人「アパートでこんな事件が起こっていることは、まったく予想できなかったっていうことですかね?」 証人「はい」

イラスト/西舘亜矢子

 同居しているとはいえ、成人して働く息子が資材置き場にと借りたアパートで大麻を栽培していると想像できる親は少ないでしょう。ただし、続く検察官の質疑で、確かに疑うべく材料があったらしいことが明らかになります。

父親は大麻の存在に気づいていた?

検察官「では何点か質問します。被告人の部屋の中で、不審な物を見つけたということがあったんですよね。どんな状態の、どんな物を見つけたんですか?」 証人「鉢植えです。鉢の中に高さが30cmくらいですかね、緑の細長いハッパの植物が、1株ありました」 検察官「その1株というのは、どういう状態で置かれていたんですか?」 証人「四角いBOXにですね、内側が銀色みたいな感じですけど、そこに1株だけありました」 検察官「ひょっとしたらなんだと思ったんですか? それを見て」 証人「ひょっとしたら大麻なのかもしれないなと思いました」 検察官「大麻だと思ったわけですよね? その植物に関して、被告人とは何かやり取りはしなかったんですか?」 証人「変な物育てていないよね? という話しはしていました」 検察官「その見つけた物に関して、これは何だ?というような話しはしなかったんですか?」 証人「それはしなかったですね」 検察官「それはどうしてなんですか?」 証人「それは、ひょっとしたら大麻だと思って、大麻だと言われた時に、どうしようかっていうような不安があったと思います」 検察官「あなた自身、そういうことにかかわりたくないという気持ちがあったんですか?」 証人「いやあの、結果としてそうだったかもわかりません」 検察官「被告人が部屋の中から大麻の栽培に関する本だったり、道具だったりは、そういったものはこれまで見たことはありますか?」 証人「それはないです」  酌量を求めて証言台に立つ以上、被告は親にとって同居するに耐えない人間ではなさそうです。また、父親にこれ以上の反応、反省を求めるのも酷という気がします。検察もこれ以上は突っ込みません。
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自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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