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病院に通っても覚せい剤がやめられない男の悲劇<薬物裁判556日傍聴記>

 槇原敬之が覚せい剤所持などの疑いで逮捕された。まだ容疑の域を出ないとはいえ、槇原敬之は1999年に逮捕されてから20年以上たっているだけに、世間への衝撃は大きかった。  彼や昨年7度目の逮捕をされた田代まさしを例に出すまでもなく、一度覚せい剤に手をつけてしまうとやめるのは容易ではない。なんといっても田代まさしはテレビ出演して薬物依存から立ち直る困難さを説いていた矢先の逮捕だったのだから。  薬物事案の裁判を556日に渡り傍聴し、その法廷劇の全文を書き起こした斉藤総一さんの手記を読むと、そこには覚せい剤の「恐怖」が滲み出ている。今回紹介する法廷劇を読んで浮かぶ被告の姿は、弁護人がどう取り繕ったところで、文字通り「人間やめますか」の領域にある。  そして、これは覚せい剤による逮捕者の極端な例ではない。「覚せい剤を使った結果はこうなる」という典型例のような裁判だ。この傍聴記ひとつをとっても、いかに覚せい剤がたちの悪い薬物なのか伝わるだろう。

斉藤総一さん

   *** ※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

覚せい剤をどうしても止められない

 まずは例によって検察官による起訴状の朗読から。 検察官「公訴事実。被告人は法廷の除外理由がないのに、平成28年3月9日ころから同月14日までの間に、埼玉県内または、その周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンまたはその塩類若干量を自己の身体に摂取し、もって覚せい剤を使用したものである。罪名および罰条、覚せい剤取締法違反、同法41条の3第1項1号19条、以上です」  要するに被告は覚せい剤を使用したわけです。続いて証拠調べ。検察側の立証に耳を貸しましょう。 検察官「検察官が証拠によって証明しようとする事実は以下のとおりです。まず被告人の身上経歴等ですが、北海道で出生、高校中退後、犯行当時は生活保護を受けながら、住居地にて単身で生活をしていました。前科8犯。うち同種前科3犯、前歴3件を有します。犯行にいたる経緯および犯行状況等です。  被告人は平成16年6月に覚せい剤取締法違反で懲役2年の判決を受け服役し、平成18年6月に出所しました。出所後、被告人は北海道で生活をし、いったんは覚せい剤の使用をやめていましたが、出所して約1年後から知人から覚せい剤をもらったことをきっかけに、覚せい剤の使用を再開しました。それから被告人は平成24年に北海道から埼玉県に生活拠点を変え、武里総合医療センターで、覚せい剤治療の通院をしていました。  しかしながら、そのような通院治療の間にも覚せい剤の使用は継続して使用しており、平成24年に埼玉に来てから、少なくても2回覚せい剤を使用しました。犯行状況は公訴事実記載のとおりです。第3として、その他情状等。以上の事実を立証するため、証拠等、関係カード記載の各証拠を請求します」  前科8犯。過ちとわかりながらなぜやめられないのか。どういうきっかけで覚せい剤に再度手をつけてしまうのか。以下の弁護人とのやり取りのなかで、覚せい剤に絡め取られた人間の、恐るべき日常が垣間見えます。少し長いので途中で区切りながら紹介していきましょう。 弁護人「前回の刑で刑務所から出てきたのが、平成18年6月ということですよね? これも自己使用目的ということでいいんですか?」 被告人「はい」 弁護人「それで出所したあと北海道で内妻の方と生活していたんですかね?」 被告人「はい」 弁護人「出所した直後から覚せい剤はまた使い始めたんですか?」 被告人「いや、直後ではないです」 弁護人「どれくらいしてから使用してしまったんですか?」 被告人「うーん、2から3年かな」 弁護人「どういうきっかけで使っちゃったんですか?」 被告人「酒を飲んで気が大きくなったときとか、嫌なことがあったときです」 弁護人「刑務所から出てきて、初めて使ったきっかけって何だったんですか?」 被告人「友達が持ってて、やらないか? っていう話しになって、それで」 弁護人「ちなみに、その時もお酒は飲んでいたんですか?」 被告人「はい」 弁護人「そっか……。また覚せい剤使っちゃうと、刑務所に行くんじゃないかってわかりますよね? 何で友達がくれるからといって使ってしまったんですか?」 被告人「気が大きくなってたんだと思います」

覚せい剤を誘う人間は「友人」か?

 覚せい剤で逮捕されながら再び手を出してしまったのは、酒で気が大きくなったのと友人の誘いがあったから、と被告は言います。しかし、前歴がある人間に覚せい剤をやろうと誘う人間は果たして「友人」なのでしょうか。酒で気が大きくなったという以前に、この場にいること自体が被告の過ちという気もします。 弁護人「そのあと、どれくらいの頻度で覚せい剤を使っていたんですか?」 被告人「そんなしょっちゅうは使っていません」 弁護人「1年に1回くらいと聞いていたんですけど、それぐらいでいいですか?」 被告人「はい」 弁護人「それぐらいの頻度に抑えられた理由はありますか?」 被告人「仕事をしていたから。そういうときはやらない」 弁護人「内妻の方と生活をしていたというのもあるんですか?」 被告人「はい」 弁護人「そのあと内妻と別れて、平成24年ころに埼玉に来たんですよね? そのあとは生活保護を受給して生活しているんですか?」 被告人「うん」 弁護人「埼玉に来てからは武里医療総合センターに通院しているんですか? 何の治療をなされているんですか?」 被告人「精神病。覚せい剤の副作用もあって」 弁護人「どれくらいのペースで通院していたんですか?」 被告人「4週間に1回」 弁護人「どういった治療をするんですか?」 被告人「尿検査とカウンセリングです」 弁護人「覚せい剤をやめるための、こういうプログラムがあるみたいなのはあるんですかね?」 被告人「何かあるようですけど、わかりません」 弁護人「埼玉に来てから覚せい剤は何回か使ったんですか?」 被告人「はい」 弁護人「1回目は平成25年の7月頃に、病院で尿検査をして陽性反応が出たときですかね?」 被告人「はい」 弁護人「お医者さんには何て言われたんですか?」 被告人「ダメですよって」 弁護人「(苦笑しながら)お医者さんが“ダメですよ”って言ったんですか?」 被告人「はい」 弁護人「覚せい剤を使っているのを見つかって、このときはどう思ったんですか??」 被告人「よくわかりません」 弁護人「もう使っちゃいけないなって思わなかったんですか?」 被告人「思いましたけど、お酒のせいで」

イラスト/西舘亜矢子

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「お酒のせい」でこうなったと繰り返す被告
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斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。(https://note.com/so1saito/n/n6a511a399ad7

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